木の葉を雨が叩く音がする。 ノリアスの森の奥深く、人気も少ないような奥深く。 6人の戦士を飲み込む深緑の迷宮。 この雨音はこれからの戦いへのエールか 葉と葉の間から零れる雨粒は血の流れることへの悲しみか 雨脚が強くなってきたようだ。森は待っているのだ。激しい熱狂と興奮の戦いを… <第2回ガッツオバトルフィールド 開幕!>
ダークネス選手VSダーク選手 ヴィンセント・シュテイン選手VSリト選手 ディア・ルルノ選手VS鼓前選手 このフィールドはシモンが執行部より審判としてつかせていただきます。 <現在のフィールド> 天候:雨 地面:湿(ところにより泥 「ガッツオの誇る自然の中でも、最大の森林地帯であるノリアスの森。 空は木々の葉に覆いつくされているような、完全な樹海。 普段は静寂なる森の中で、どんな戦いが繰り広げられるか! 」
「ケロー。シモンケロ。今回は、おいらが審判・解説を担当させて頂くケロ。よろしくケロ。 選手の皆さんには、タワーで皆さんが使用するようなスカラベのようなもの(オイ)を持たせてあるので、それでこちらまで呼び出すことになるケロネ」 と蛙は懐から何か取り出す。 しかし、それはよく見ると、スカラベではなくメスのカブトムシだった。 「…と、とにかく。勝負がつくまでは、この森から出ることはできないのケロ。 では、皆さんをココへ召還することにするケロか…」 蛙はぶつぶつと呪文を唱える。 すると、メスカブトムシが七色に輝きだした 「ガッツオバトルフィールド。ここに開幕ケロ!!」
「そろそろ、か…」 自室で鎧を着け、剣を背負う。そろそろ、通達された召集の時間が迫っていた。 「さて、今回の俺の相手は、誰になる事やら…」 呟き、部屋を出る。と、その時腰に付けていた、BF執行部から渡されたスカラベ(のような物)が7色に輝きだした。 「っんだ、こりゃ?一体何g――」 次の瞬間、視界が光に包まれる。あまりのまぶしさに、思わず目を覆う。光が収まって来ると同時に、身体中に何かの感触を覚えた。 ―――雨――― 俺の身体を、冷たい雨が打ち付けていた。 回りを見渡せば、そこは深い森の中…
回りを見渡せば、そこは深い森の中… 「ここは…ノリアスの森か!今回のバトル・ステージはこんなとこかよ!」 深い森に、雨、そして、ぬかるんだ足場…戦闘をするには、甚だ条件はよろしくない。もっとも、それは相手も同じ事だ。ただ、一人を除いては… 「…もし俺の相手が兄貴だとしたら、こいつは最悪の展開だ…俺にとっては最悪でも、兄貴にとっちゃ屁でもねぇからな…」 吐き捨てるように言い、歩き出す…雨は、やむ気配はなかった…
「またこの姿で戦いをする事になろうとな」 自宅の城の一室で黒衣を脱ぎ捨て、和の国独特の陰陽師と言われる呪術師の衣装へと着替えを終えると男は徐に2本の太刀を腰に差し、奇妙な文字の書かれた呪符と言われる紙切れの束を懐に押し込んだ。 「ふぅ・・・これも調整せねばな・・・」 両目に手を当て眼球を弄り始める。そう、この男・・・両目が義眼なのだ。気分が高揚するとくっきりと両目に縦傷が浮かび上がり暗闇に出ると左目は赤く怪しい光を放つのだった。
身支度を整えた男は時間を確認し目を閉じる。 「うむ、そろそろ時間のようだな。さぁスカラベよ!私を戦いの場へ導くが良い」 召還に指定された時間になり7色に輝き出したスカラべ(のような物)によって全身が光に包まれた。 ポツポツ・・・(雨音) 「ん?雨か。なるほど、舞台はこの森か・・・確かノリアスの森だったな」 普通の人間ならば雨によって出来た泥濘に足を取られる所だが男は場慣れした足取りで歩き出した。
「私の相手もこの近くに居るはずだ。もし、同じ事を考えているならば樹木の根のしっかり張った足場の良い所を探すはずだ。さて、行くとするか・・・」 男は辺りを警戒しながら森の奥へと歩を進め相手を探すのだった。
「…よもや、俺が闘う側になろうとは、な…」 呟き、身支度を整える…親衛隊長などを務めているのでそうは見えぬやも知れぬが、元来闘いを生き甲斐にするような男ではなかった。 男にとって、闘いとは、今日の糧を得る事であり、明日へと命を繋ぐ事だったからだ。 殺らなければ、殺られる…そういう世界で生きてきた故に… 漆黒の鎧に身を包み、剣を佩き、身支度を整える。机の上に置いてあったスカラベ(のような物)を手に取った時、それが七色に輝きだした。 次の瞬間、光が辺りを包み込み同時に静寂が訪れる。 光が収まると同時に、静寂も破れていく…頬を冷たい何かが撃った…
「…雨、そして森か……」 周囲を見回し、現状把握に努める。雨、深い森、ぬかるんだ足場… 「なるほど…現状は把握した…この程度なら、大した障害にはなるまい…」 呟いて男は歩き出す…戦場を彷徨する死神の如く…
「そろそろ時間だな……」 戦闘用にと、動きやすい衣装に着替えて、彼女は呟く。 とは言え、舞手である以上、その衣装は長くゆるやかだ。 袂の長い袖に、足もとまでの長衣。 接近戦や肉弾戦に不利であるのは見るからに明らかなもの。 と、その時、渡されていたスカラベ(もどき)が輝きだした。 一瞬驚いたが、多分転送だろうと思いじっとしている。 奇妙な浮遊感は少々気分が悪く、思わず目を閉じた。 パタパタッ…… ……不意に聞こえた水音と、頬に冷たい感触。 目を開ければそこは鬱蒼とした森だった。
「ここは、……ノリアスの森……か?」 手つかずの原生林は、都市近郊は農業地域として発展しているが、 奥のほうは古代ストーンカ時代のままと聞く。 ここはおそらく、その奥のほうなのだろう。 衣装が濡れては舞うこともつらくなる。 幸い樹齢100年を越すような樹木が多いので、 そこをつたっていけばそれほど濡れずにすむだろう。 「雨がしのげて…足場のいいところじゃないと……」 困ったように呟いて、呪文の縫いこまれた衣を腰から解き、かぶる。 特殊な素材でできているので、いくらかは雨を避けることができた。
こんなことなら和傘でも持ってくればよかったと思いながら、 足場を求めて歩いていく。 「ストーンカ時代の遺跡とかあれば……ちょうどいいんだけど……」 対戦相手が誰かわからないが、戦闘を得手としない自分には、 よい場所を見つけなければ話にもならない。 舞ができなければ、ただのひとも同然なのだから。 むせかえるような緑のにおいの中、彼女はゆっくりと歩きだした。
では、選手の紹介をさせてもらうケロ。 まず最初に登場しました紅の魔剣士ダーク! 彼の武器は、美しい深紅の刀身をもつ魔哭剣クリムゾン・ブラッド! ご存知、彼はガッツオ騎士団長。前回のBFからもその強さは誰もが認めるところ。 力強い豪快な戦いを見せてくれるのか、ワクワクさせられるケロ。 次に現れますは、義眼の退魔陰陽師ヴィンセント・シュテイン! 彼の武器は無銘の二刀!陰陽師のいでたちで登場ケロ。 その姿どおり妖美な戦いを見せてくれるのか、 そして、すばらしい頭脳戦をみなさん楽しみにケロ!
続くは、闇騎士ダークネス! 武器は暗黒剣ダークスレイブ。漆黒のその姿は死神の如し。 親衛隊を束ねることからも、その実力は計り知れないものであると想像できるケロ 今回の義兄弟対決。ガッツオ最強の男が決まるかもしれないケロ! そして、緋月の舞手リト! 武器は鉄扇、月光蝶!華麗なる姿での登場ケロ! 舞手としてのその麗しい姿、その姿どおり、 本日も美しく舞ってくれるのでしょうか!
「とわ!もうすぐ時間ッス!」 ドタドタと忙しく走り、準備をしているのは、赤い髪のチビッコである。 チビッコは、今日限りの白い着物と赤い袴に着替え、最後にその小さな体にはバランスの悪い大剣を鞘にしまい、ベルトを肩にかける。 なんとも不恰好だが、その顔は、今からのことが楽しみなのか、ニコニコしている。 「うっす!準備オッケーwと、スカラベ?えと…」 目についたのは、机の上におかれたスカラベ(のような物)を手に取った。 その瞬間、チビッコの部屋を眩い光が広がる。 「な!???」 チビッコは、光に驚き、残っている片目をきつく閉じた。
「お???」 気がつくと、そこは、緑いっぱいのノリアスの森。 「…どこ????」 すでに迷子のチビッコである。首を傾げ、周りをキョロキョロと見回す。 天からは、細い雫が降りてきて、チビッコの肩を叩く。 「はぁーv」 チビッコは、息を深く吸い込む。森の空気が好きらしく、何度も深呼吸をする。 「いいッスねv森だ☆」 ぬかるんだ地面も、空からの雨も気にしないらしい。ノウテンキ極まりない。
「と、でも、雨じゃ、巫女服が濡れるっすなーwま、そん時は脱げばいいやーw」 …誰か拳骨を入れて欲しいと思う。 チビッコは、適当に道を見つけ、歩き出した。 袴が濡れないように、少し持ち上げながら…。
どれくらい歩いたのだろうか・・・和服の裾はすでに跳ねた泥水で汚れてしまっていた。 ふと、森にしては珍しく地面に堅い物が敷き詰めてあるのに気付く。 「こんな森にいったい何が有るのだ」 腰の刀を鞘ごと抜いて堆肥と化した樹木を避けるとそこには石版が何枚も道のように敷き詰めて有った。 「これは!まさか・・・こんな所で発見するとはな(苦笑)遺跡か・・・」 ガッツオは古代ストーンカの都市が存在したと言われている。そう嘗てこの地にはストーンカ文明が栄えたと言うが探索者によって極稀に遺跡が発見されるらしい。ノリアスの森もその例外ではなく希有な事にその遺跡という物を発見してしまったのだ。
「ここに石版があるという事はこの奥には遺跡が存在するはず・・・そこかぁ!!」 男は石版の導く方向を突き進むとそこは先ほどまでの森の風景とは違い明らかに人為的に作られた建物の朽ち果てた残骸が横たわっていた。 「ここは使えるな。隠れても仕方あるまい・・・待つとするか」 崩れた遺跡の中腹に雨宿り出来る小さな仮の屋根を見つけそこに警戒しつつも腰掛ける。
それからそれぐらいの時が経っただろうか・・・近くで鳥の飛び立つ羽音が聞こえた。 「向こうさんもここを発見したようだな・・・さて、出迎えるとしますかね」 腰を降ろしていた遺跡の中腹から最上段に登り辺りを見回す。 どうやら、相手も気付いたのかこちらへと歩いてくる。 次第に霧が晴れるようにはっきりとしてくるその者をじっと見つめる。 そしてその顔がはっきりした時点で男は少し驚いたような顔つきになり一言呟いた。 「リト・・・なのか」
「ああ、もう…裾が汚れるなぁ……」 たくしあげているために、泥で汚れはしないが、 下にはいたズボンはだいぶ見た目が悲しくなっている。 水がまとわりついた衣装は重く、気持ちが悪い。 とにかく早急に屋根のある場所を見つけなければならないと思う。 しかし見つけても、相手をそこに誘わなければ無意味なわけで…… 「……ん?」 ふと、今まで不安定だった足場に堅い感触。 かつかつと足で蹴っても崩れる様子はない。 「……もしかして……」 ぽつりと呟くと、歩みをはやめた。 足もとの堅い感触をたどって進むことしばらく。
一度は多い茂った木々に行く手を阻まれたが、 それでも確信をもって進むと、突如、視界が開けた。 ……朽ち果てた遺跡には、雨がよく似合う。 しっとりとした悲しさをまとわりつかせたそこは、 まぎれもなく旧帝国ストーンカの遺跡。 原形をとどめぬほどに劣化しているが、足場はこれで確保できた。 あとはどこかに屋根があれば言うことはない。 奥のほうをめざし歩くと、動く影が見えた。 ――対戦相手に違いない。 どうやら、相手も考えたことは一緒だったらしい。
まあ、余程戦闘に自信がある者でなければ、 雨の森林での戦いは避けて通るだろう。 人影は誰かを待っているように見えた。 最も、この状況で待っている相手など決まっている。 ――自分だ。 息を吐くと、彼女はまっすぐそちらにむかっていった。 ちょうど霧が晴れ、視界が明らかになってくる。 目の前にあらわれた人物を見て、リトはちょっと驚いた。 「ヴィンス殿か……」 むこうも同じようにこちらの名を呟く。 ――そこにはやはり、軽い驚き。 が、いつまでも呆けているわけにはいかない。
ばさっと身体をふるい、水気を落とす。 ぱらぱらと水の粒が散る音を聞きながら、 衣をまとい扇をとりだした。 「まさか相手が貴殿とは思わなかったが…… これもめぐりあわせ……だな」 す……と閉じた扇を一度ヴィンスにむけてから、 自分のほうに引き寄せ一度に開く。 「では…お相手願う」 扇を持った右手をまっすぐ横に、左手を胸の前に置き、 彼女は優雅に一礼した。 相手の礼が終わればすぐにも動きだせるように、 金の瞳はしっかりと開いたままで。
ガツガツガツガツガツ・・・・ ルルノはテーブルの上にあるずらりと広げた 山のような食べ物を次々と大きく開けた口の中へ放り込んでいく。 「や〜〜っぱ腹が減っては戦はなんとやらって いうもんね〜〜〜〜なのっすよw<ノ」 準備は万端wこの日のために新しく新調した鮮やかな刺繍の入った 前掛けや、色とりどりのアクセサリーの数々 (精霊の魂を宿した石がたくさん使ってある)に身を包み 彼がこれから戦う場に向かうという意思を表した 様様なペインティングが顔、体中に施してある。 どこからともなくどこの部族の方?と聞かれそうっすが(ぇ とにかく今は腹を満たすことに必死な彼。
次の食べ物へ手がのびる。何やら見慣れないものを掴んだ。 「んお??なんじゃいコレは??ま、いっか・・・あ〜〜〜ん」(マテ ルルノはスカラベ(のような物)を口へ運ぼうとした・・・(ぇ その瞬間、ソレは眩い七色の光を放ち、 一瞬にしてルルノを包み込んだ。 「ほ・・・ほええええ〜〜〜〜〜?! 俺チの飯がいきなり光りだしたのっすうう〜〜?!(違 あァれえ〜〜〜〜〜!!!」 大混乱のルルノはそのまま光にのまれ、 部屋から姿を消した。
「え?アレ??こ、ここは・・・・」 キョロキョロと回りを見渡す。 そこは薄暗くうっそうと覆い茂る森。 木々の葉、隙間から流れ落ちる雨の雫が頬をつたう。 はっと気付く。(遅 「ゲゲゲッ!!もしかしてここが戦いの場?!マジかよ〜〜 俺チ・・・まだご飯途中だったのに〜〜〜(オイ;」 ルルノは少し肩を落としながら、家に残してきた ご飯の残りを心配しつつ・・・ 地面に這う木々たちの立派な根っこを 足場に軽快に走り出した。 「ま、森は俺の庭のようなもんっす〜w天気が悪いからって狩りには なんの支障もなく!頑張るぜ!イエア★」
選手紹介はまだ続くケロよ 隻眼の魔人、鼓前! 武器は背中に背負っている大剣、晴丸。巫女服での登場ケロ! 幼いいでたちらしからぬ戦いをお楽しみに! 最後に妖狐、ディア・ルルノ! 武器は特殊な短剣カタール、アヌビス! 彼は狐ということで、このフィールドにもっとも適しているかもしれないケロ 今回は鼓前さんと親友同士の対決となったケロ。手の内を知ってるもの同志の対決となると、激しい駆け引きが展開されるでしょう。 激しい戦いに乞う御期待ケロ!
ええと、ちょっと進行に遅れがあるノケロ。 皆さんには本当に申し訳ないケロ。 そこで、慌てて戦っても仕方が無いので、期間を5/8の24時まで延長するノケロ。それくらいを目安に、のびのびと戦ってくれると嬉しいケロ。 では、選手もそろったケロ。 6人による、雨の森を彩る激しい戦いをご覧になってほしいケロ!
対戦相手を求め、森を歩き始める。 恐らくは、近くにいるはずだ。いや、もしかしたら、すでに相手は俺の事を捕捉しているかも知れない。 今、次の瞬間、背後から短剣が飛んで来るやも知れぬのだ。 周囲に気を配る…すると、本当に背後に気配を感じた。 「!?」 背中の剣に手を掛け、振り向く。するとそこに居たのは………コボルドだった…
『ゲ、ゲゲ!!』「…………………」 ワケの分からん威嚇のような声を上げているが、今更コボルドにビビるようなレベルではない………それ以前に、思いっきり水を差されて、ブチ切れ寸前である。 「……てっっめえぇ!ケンカ売ってんのか!?」 言って、左手に魔力を集中させる。刹那、直径30センチ程の火球が生まれる… 「…丁度いい…てめぇを消し炭にして、開戦の狼煙代わりにしてやらぁ。恨むんなら、こんな時に俺の前に現われた迂闊さを呪いやがれ!」
言って、左手をコボルドに突き出す。火球は一直線にコボルドに向かって行き…轟音と共に一気に燃え上がった。 それと同時に、コボルドに駆け寄り、袈裟斬りに斬り伏せる。 「さあ、聞こえてんなら、出て来やがれ!闘いの狼煙は上がったぜ!」 大声で叫ぶと、横合いから、男が現われた。 「待ってたぜ…さあ、始めようか」
男は、何処へ向かうでもなく森の中を歩んでいたが、ふと何かに気付いたように立ち止まった。 「………いる、な……この周辺に、数人…俺に一番近い場所にいる者は………向こうか…」 言って、歩き出す。自分から、最も近い『気配』のする方へ。 少し歩いたところで、その『気配』のする方向から、今度は魔力を感じた。 程なくして聞こえる爆音…そして声… 『さあ、聞こえてんなら、出て来やがれ!闘いの狼煙は上がったぜ!』 どうやら『気配』の主は、よく見知った男らしい。俺は気の陰から姿を現し、問い掛ける。
「俺の相手はお前か、クリムゾン…」 『待ってたぜ…さあ、始めようか』 その剣士は、真っ直ぐに俺を見据え、言い放った。 傍らには、たった今クリムゾンが斬り倒したコボルドが死体となり転がっている。 その光景に、既視感を覚えずにはいられなかった。
「…懐かしいな…思えば、初めて会った時もお前はそうやって返り血にまみれていた…あの時は、雪であったが、な…あれから5年…お前は、良い意味でも悪い意味でも、昔とほとんど変わらぬ…」 言い放ち、剣を抜く…一つだけ、確実に変わっている事がある… クリムゾンの力が、当時とは比べるべくもないと言う事… 「…厳しい闘いになるやも知れぬ、な…」 呟きは、雨音によって、誰の耳にも届かなかった…
「ふふふ、戦いとなれば私情は禁物。遠慮なく行くぞ!」 リトの方を向き一礼すると同時に間合いを遠距離に取るべく一度遺跡の反対側へ降りてから相手を内部へと誘い込む様に所々雨漏りのするドーム部分へと入って行く。 「ストーンカ文明と言うだけあるな・・・」 そう言葉で漏らした言葉の通り、内部は半地下に削られておりちょうど人々が集会をするのにちょうどいい広さが有った。嘗てはここにたくさんの人が居たと思うと感慨深いが今はその感情を捨て、戦いへと集中する。
「来いリト、私はここだぁ!!」 ドーム内部で一喝すると反響で声が響き渡る。どうやら、リトもこちらの意図を読んだのか内部へと足を踏み入れてきた。 「貴殿も考えは同じという事か・・・」 この時点で相手の間合いに入るか入らないか寸前の所で対峙する格好になった。腰の刀に軽く手を伸ばし、いつでも居合いが放てるように構える。 「リト、先に仕掛けて来るがいい・・・レディーファーストだ(微笑)」
チビッコは、すでに迷子感覚で歩き始めていた。 自分よりもずっと背丈の高い緑の葉を押し退け、思う道を突き進む。 「どこッスか〜〜?って、誰に会うのかなー?」 小首を傾げつつ、ぐんぐん進んでいく。 「?」 と、急にその足が止った。 空を仰ぎ、耳を澄ませる。そして、周りに視線を走らせる。 「?」 そして再び首を傾げる。しかし、何かを感じたのか、気になったと思われる右斜め45度の方向へ歩き出した。 場慣れしてるのか、デコボコとしている大樹の根や岩、倒れた大木の上をひょいひょいと歩いて行く。 そして、一枚の大きな葉を押し、新しい視界が広がった先に…見つけた…。
「だ;;;るるっすかーーー!???」 チビッコは、驚きのあまり、すっとんきょうな声を上げた。 見つけた相手は、数回に渡り「ケーキ争奪戦」を繰り広げ、 そして未だに勝利をもぎ取ることが出来ない相手。 イチバンの親友だった。 「むー、仕方ないっすね。今回こそは!!俺が勝つっすよ★」 チビッコは、そういうと肩から掛けていた晴丸を鞘から抜き取り、 ニッコリと笑った。
雨の中、軽快に木々の間をすり抜けるようにかける。 だんだん獣の血が自分の中で高ぶってくるのが分かる。 「んん〜〜〜〜〜wこの感覚〜超イイ感じ〜♪」 自分の獲物は一体どこに?! 先ほどから雨あしが強くなり始めている為 自慢の嗅覚はあまり役に立たない。 仕方なくルルノは目の前に見える 大樹の枝に手をかけた。 ひょいひょいっと枝に登りきると彼はその大樹の幹にそっと 手をあて、ぼそぼそっと呪文を唱えた。 『なあなあ、眠ってるとこわり〜んだけど教えてくんね〜すか? 俺チの獲物の居場所w』 ざわざわざわ…ルルノの声が届いたのか 大樹の葉が他の木々と話でもしているかのように 大きな音を立て始める。
『…サンキュウ!!助かったw』 ルルノはその大樹から情報を得たのか、ニッコリ笑うと 枝から地面へ向かってダイブした。 くるっと上手に着地したあと、また何やら呪文を唱え そして大樹の根に触れた。 触れた部分がやわらかい光を放つ。光はそのまま 根へと吸い込まれていった。 「うっしw礼もしたことだし、いざ出陣じゃwイエア★」 再び走り出す。 大樹が教えてくれた獲物のところへ。 「ん〜・・・しかし・・・まさかね〜」
覆い被さるような草をかきわけた。 「やっぱりかよ〜〜〜〜〜・・・・」 何やら彼の予想は的中したようだった。 『だ;;;るるっすかーーー!???」 すっとんきょうな声が静かな森に響き渡る。 目の前に見えるは・・・ そう、彼の大の親友。 鼓前だった。 「これって俗にいう腐れ縁ってやつ?」 というのかどうかは知らないけれど。 『むー、仕方ないっすね。今回こそは!!俺が勝つっすよ★』 親友が鞘から剣を抜き、剣先を俺に向けるとニッコリ笑った。 彼もすかさず後ろに手を回し相棒を抜き取る。 アヌビスを握りしめた両拳に力が入る。 「残念w今回も・・・俺の勝ちだぜw鼓前!!」
俺の前に現われたのは、漆黒の剣士…俺がこの世でただ一人、義兄と敬い慕う男… 『…懐かしいな…思えば、初めて会った時もお前はそうやって返り血にまみれていた…あの時は、雪であったが、な…あれから5年…お前は、良い意味でも悪い意味でも、昔とほとんど変わらぬ…』 「いいや、変わったさ…少なくとも、為す術もなく兄貴にボコられたあの時とは、ワケが違うぜ。それを…今から証明してやらぁ!!」 言うが早いか、突進する。素早い踏み込みで間合いを詰めると、一気に剣を振り下ろした…
一礼した直後、ヴィンスは突然疾走する。 が、その走りかたはゆっくりで、誘っているに違いなかった。 体力の消耗を避け、あえてゆっくり進んでいく。 旧文明を長めながらの歩きは、状況が違えば遠足かなにかのようだ。 「来いリト、私はここだぁ!!」 幾重にも反響したその音に、歩く速度をはやめる。 先はコロシアムかなにかだったらしく、ドーム状の建物。 ヴィンスは自分の反対がわで、腰の刀に手をそえている。 「リト、先に仕掛けて来るがいい・・・レディーファーストだ」 「……たいした自信だな……では、ありがたく……」
接近戦になれば勝ち目はない。 それを考えると、彼の科白は都合がいい。 さら衣をなびかせると、彼女はしずかに舞いはじめる。 「水の中には有らぬ露。それはなにかと人の問う。 答えていわく、そは桜 散りゆくさまは水の珠、それはまさに空の雫。 舞い散る花びら紅色。なにもかもを覆い尽くせ!」 舞が終わると、周囲に突然桜の花びらがあふれた。 それは突風にまかれたかのように散らばり、 ヴィンスと彼女の間を隠してしまう。 「目隠しか…っ」 遠くにヴィンスの声を聞きながら、彼女は次の攻撃の準備をする。
しかし彼は素早く気配を消してしまう。 が、おそらくそうすると思ったので、あまり驚かない。 わざと気配を絶たぬまま、彼女はそっと、けれど急いで舞を結ぶ。 「炎よ炎、激情家の悪戯ものよ。 請願を聞きてここにあらわれよ。 その感情でなにもかもを焼いてしまえ……」 ただしこれは、攻撃のものではない。 舞が終わりあらわれた炎は、彼女を守るようにくるくるととりかこむ。 だが、素直に攻撃してきてくらってくれるとは思えない。 油断なく扇を構えたまま、彼の攻撃を待った。
剣を抜くと同時に、クリムゾンが突進してくる。ぬかるんだ足場をものともしない、力強くかつ素早い踏み込み… そして、それから繰り出される斬撃は確かに昔のそれとはレベルが違う… クリムゾンの剣は、弧を描いて俺の頭に振り下ろされてくる。それに対し、俺は大きく斜め右前に踏み込み、胴を横に薙ぐ。 ――― 一閃 ――― 二人の身体が交差し、すれ違う… 俺は、剣を持った右手を大きく横に広げた格好で… クリムゾンは、右半身を前に突き出し、剣を振り下ろした格好で…
『…なるほど…確かに強くなった…俺と互角か、それより上か…』 同時に、マントが背中ほどの高さから下まで、真っ二つに割れる… 『けっ!身体にゃかすらせもしねぇクセに、よく言うぜ!ただでさえボロいマントが、またボロくなっちまったじゃねぇか!』 刹那、マントの下の方が千切れ落ちる… 初撃は、互角…いや、俺の方が『深く入れられた』…
「…やはり、このままではお前の相手をするのは厳しいな…」 クリムゾンに正対する…マントの留め金に指を掛け外し、左手で引っ張り横に放り投げると同時に、背中から漆黒の翼が現われる。 翼を目一杯に広げ、ゆっくりと羽ばたかせる…翼を披露した相手に対し必ず行う儀式のようなもの… 「…闇の翼、披露したのは久方振りだ…手加減など、一切せぬ…」 言う男の眼には、冷たい光が宿っていた…
辺り一面に舞う桜の花びらで両者を隔てる視界は完全に奪われていた。 私は自らの殺気を絶ち、目を閉じて相手の気配を伺い始める。 (気配を消してないのか・・・いや、むしろその身に交わした炎で私を誘っているというのか) 一瞬、相手の罠という事も考えたが牽制攻撃で出方を見る事にした。懐に手を伸ばし呪符の束から攻撃に使うものを掴み取る。
「呪符・・・火炎連撃!」 私は用意していた呪符のうち火炎攻撃の呪符を纏めて投げ付けた!呪符は途中炎の塊となり桜の花びらを燃やしながら連続で攻撃を加える。 この技の名を『火炎連撃符』という。 (さぁどうするリトよ) 呪符を放った方向へのカウンター攻撃を防ぐ為に反対方向へと走りながらリトを見据える
『残念w今回も・・・俺の勝ちだぜw鼓前!!』 目の前に現れた親友がニヤリと笑う。 チビッコは、胸の前にクロスさせたカタールに目をやる。 自分がデザインし、親友と共に作った武器。 そして、自分の剣…。 両方に、色々な思いが込められている。 「…行くっすよ!!」 チビッコは、最初の一撃目を振るうべく、親友の前に踏み込んだ。 「マズは、一撃メ!!」
『…闇の翼、披露したのは久方振りだ…手加減など、一切せぬ…』 言って翼を羽ばたかせ剣を構える兄貴の瞳は、吸い込まれそうなほどに昏く、そして冷たく光っていた。俺は、この眼を知っている… 兄貴が、本気で相手を『殺す気』になった時の眼だ。 「…光栄だね…やっと、兄貴に本気を出させる事が出来たってワケか…」 言って、こっちも剣を構え見据える… ―――沈黙――― 葉のざわめく音と、雨の音しか聞こえて来ない、静寂の世界…
恐らくは、大した時間ではなかったろう。だが、二人には永劫とも思えるほどに長く感じた。 対峙している相手が強ければ強いほどに、受けるプレッシャーが大きくなるのは当然だからだ。 何処かで鳥が鳴き飛び立つ音がする…次の瞬間、双方ともに地を蹴った! 素早い踏み込みで、一気に剣を振り下ろす。しかし、読まれていたのかアッサリ受け流されると、返す刀で袈裟斬りにしてくる! 身体を捻ってなんとかかわし、そのまま身体を回転させ横薙ぎに剣を振るが、やはりアッサリ避けられる。 がら空きになった頭に向かって、剣が振り下ろされてくるが、間一髪剣で受け止める…が、次の瞬間、兄貴の横蹴りを腹に喰らい後ろに吹っ飛ばされた!
「ぐふぉ!?」 ダメージは無いに等しいが、カウンターで喰らったのと腹だった為、息が詰まる。 バク転で転倒を防ぐと、そのまま後ろに大きくバックステップし、間合いを取った。 「くっ…流石にテクニックじゃまだまだ話にならねぇな!ならば!」 呼吸を整え、剣を正眼に構える。意識を集中させ気を練り上げる。 「食らいやがれ!呪竜をも屠ったこの技を!!」 刹那、爆発的にオーラが噴出する。それに、風の魔力を併せる自己流の剣技… 「吹き飛びな!裏奥義・竜滅閃!!」 上段から、剣を振り下ろす!同時に発生した衝撃波は、大地を削りながら闇騎士に一直線に向かって行った…
「マズは、一撃メェェ!!」 そう言うと鼓前は、その背丈には似合わない大剣の 相棒‘晴丸‘を踏み込んだと同時に俺の わき腹目掛けておもいっきり振り下ろしてきた。 ”ガキーーーーーーーンッッ!!!” 金属のぶつかり合う音。 思いっきり振ってきたなコイツ…と、左腕に感じる大きな痺れが 親友の本気を伺わせる。 にらみ合う両者。 ルルノはニヤッっと笑うと右手のアヌビスを 鼓前の白く細い首へ向かって突き出した。 一瞬の殺気を感じたのか鼓前は間一髪のところで その突きを回避した。 そして後ろへすかさずステップし、 ルルノとの間合いを少し置いた。
左腕がまだ痺れている…。 さすがにチビでも体重かけた大剣の振りを 片腕で受けたのは失敗したか。 「チッ・・・・」 軽く舌打ちをしてルルノは自分を睨んで 機会を伺っている鼓前に声をかけた。 「てめ〜〜〜〜〜!本気で俺を殺す気か!!(笑)このドチビ鼓前!!」 ぴくッッ!鼓前の耳が動いた。 今のは聞き捨てならないと言わんばかりに鼓前の瞳が揺れる。 『あんだと〜〜〜!!!ルル!おまいだって首マジで狙ってただろ〜!!』 今まで晴丸をすぐにでも振れるよう構えていた 鼓前の腕が少し下がる。 お馬鹿ちゃんめ…かかりやがったなw 「ぶあ〜〜〜か!!かかったな!鼓前wこれでも食らえ」
気がついた時には遅かった。 最後に鼓前が見たルルノの姿は何かを投げた後のフォーム。 ”ベチ〜〜〜〜〜〜ン!!!” ルルが言ったセリフがすべて耳に届き終わる と同時に鼓前の顔面にはルルノの隠しアイテム… 油揚げがきれいにヒットしていた。 「あっはははは〜!!いっや〜んw手が滑っちゃった〜♪」 鼓前の肩がプルプルと小刻みに震える。 相当頭にきちゃったご様子だ。 ゆっくり油揚げを顔からはがして 地面に叩き付けた。 「ルル〜〜〜〜〜〜〜〜!!」 キッと目線をルルノに向けた。
『しまった…やられたっす』 これは目の前にいるルルを見て思った鼓前の心の声だった。 鼓前が顔面に油揚げをくっ付けている間に(笑) ルルノのまわりには、ゆらゆらと揺らめく青白い炎の塊が 無数に飛び交っていた。 『狐火ッすか…・・・?!?!』 そして、よく見るとまっすぐ横に伸ばした右腕の先。 アヌビスの先には彼の雷の精霊”式雷牙”が… 激しい稲光を起こしながら牙を剥いている。 「鼓前wまだまだつめが甘いぜ?!狩場では… 油断禁物・・・挑発ノリノリは厳禁だぜ〜〜〜〜!!」 青白い炎の塊達が鼓前に襲い掛かる!!!
暫しの沈黙の後、動く… クリムゾンの初撃を上手く受け流したつもりだが、その剣撃の重さに思わず顔をしかめる。 何度も連続で受けていたら、手が痺れて剣すら持てなくなりそうだ。 こちらが反撃で放った袈裟斬りもかわされ、更に横薙ぎに反撃仕返して来る。 しかし、それも予想の範疇。ジャンプしてかわすと、そのまま剣を頭目掛けて振り下ろす。 しかし、それも受け止められた。が、上に気を取られ、下ががら空きだ。 着地と同時に身体を捻り、右足で蹴りを腹に叩き込む。 後方に吹っ飛ぶクリムゾン…だが、上手く体勢を整え、バックステップで間合いを離してきた…
間合いを切ったクリムゾンは、構えを青眼に変える。瞬時にして膨れ上がるオーラ…そして同時に魔力をも感じる。 「!?これは…裏奥義!!」 危険を肌で感じ、翼を目一杯に広げる…力の源たる翼を広げ、闇のオーラを練りあげる。 『吹き飛びな!裏奥義・竜滅閃!!』 強烈な衝撃波が、大地を削りながら一直線に向かって来る… 「…裏奥義・暗黒光破!」 練り上げた闇のオーラを剣に込め放つ…闇の気を放つ衝撃波が発生し、クリムゾンのそれとぶつかり合う… 轟音が響き、大地を揺らす…辺りの木々は裂け、木の葉が舞い、小枝が落ちる… 余波が俺の服を裂き、頬を切る…
一見互角…相殺したかに見えた…が、クリムゾンは『全くの無傷』…明らかな力負け… 「…これでは、俺にもかなりのリスクが付き纏うな…ここは確実な闘い方をさせてもらうぞ…」 言い、左手に魔力を集中…生まれた雷光が徐々に大きくなっていく… 『魔法?俺にゃ魔法はほとんど効かねぇぞ、兄貴!』 クリムゾンが叫ぶ…そんな事は百も承知… 左手を宙に掲げ、振り下ろす…狙いはクリムゾンではなく、その前方… クリムゾンの前に落ちた雷は、土を飛沫を派手に巻き上げる… 狙いは、これ…目眩まし…この隙に、近くの大木の枝に飛び移り、身を隠す… ここから先は『闇騎士』ではない…『暗殺者』… 俺のもう一つの顔…
攻撃がくる。 察知した彼女は少し炎の勢いをあげる。 目隠しの桜を燃やし、炎がこちらにむかってくるのが見えた。 それはこんな状況でなければ目を奪われるほど綺麗で恐ろしい光景。 炎と炎がぶつかりあい、息苦しさに声が漏れる。 前面に壁を集中させたために、ちりと服が破かれる。 だが、そんなことに頓着している場合ではない。 「……っ、いけぇっ!」 高い声とともに、炎の一部が術の飛んできた方向へうねる。 脆弱になった壁を見捨てて横へ飛び、反応を伺うが、手応えは……ない。 やはり、そううまくはいかないらしい。
苛立つ気持ちをおさえて次の手を考えなければならない。 花びらのおさまったドームのむこうがわ、怪我ひとつ見えないヴィンスの姿。 遠距離から攻撃しても、お互いかわすのが落ちだろう。 そんな無駄はできないし、なにより体力が保たない。 ならば、いっそ…… 「風そよげ破壊を招け。 崩れ去れ風化せよ時を忘れ、 荒都の想念、塵と化せ……」 短い単語を並べて素早く紡ぐ。 扇を向けて舞いあげると、たしかな力がヴィンスのもとへ走る。
すかさず構える彼だが、力は彼を通り抜ける。 狙いは彼ではなく、そのうしろの――壁だ。 ばしんっと音を立て、古い遺跡の壁がはがれ落ちる。 一瞬でいいから、隙をつくりたかった。 古代遺産への畏敬の念を少しだけ忘れて、足止めを選ぶ。 接近戦は苦手だが、延々無駄なことを繰り返すことなどできない。 短気な性格が災いを招くと知っていても、我慢などできなかった。 だから、壁が崩れるとともに、彼女は疾走した。 遠くからが駄目だというなら、もうこれしかない。 先端に針のついた鉄笛を持って、 ヴィンスのもとへ距離をつめる――
大地を削って伸びる衝撃波…呪竜をも屠ったその力、まともに喰らえばただでは済まない。 対する兄貴は、翼を広げ同じく気を練る。振り下ろした剣から、闇の衝撃波が発生し迎え撃つ! 目には目を、歯には歯を…敵もさる者で、衝撃波に衝撃波をぶつけ相殺を狙って来た。 凄まじい轟音が響き、大地を揺らす。一見互角に見えたが、俺の『竜滅閃』の方が上だったようだ。 俺の方に余波は来なかったが、兄貴の方は服が裂け、頬が切れている。
「テクニックじゃ一歩譲るが、パワーじゃ俺の方が上のようだな、兄貴!このまま押し切らせてもらうぜ!!」 言って、身構える。すると、兄貴は後方に飛び退り、左手に魔力を集中し始めた。 「魔法?俺にゃ魔法はほとんど効かねぇぞ、兄貴!」 右手の剣を、地面に突き立てる。 こいつがある限り、生半可な魔法は全て無効化する事が出来る。それを兄貴が知らないハズがないのだが… それでもなお、魔力を高める兄貴。その魔力は、既に雷の形を取って具現化している。
不意に、左手を掲げ振り下ろすと雷が空気を切り裂き襲い掛かってきた。 「哭け、クリムゾン・ブラッドォ!!」 同時に、俺の周囲を紅の結界が包み込む。アンチ・マジック・シェル…攻撃魔法しか防げないが、その代わり効果は絶大だ。当然、兄貴の雷撃も通用しない。だが、兄貴の放った雷撃は、俺ではなく俺の手前数メートルの場所に炸裂した。 舞い上がる、土砂と飛沫…一瞬視界が遮られ、前方がほとんど見えなくなる。
視界が開けた時、そこに兄貴の姿は無かった… 「しまった!何処に隠れやがった、兄貴!?」 必死で気配を探る…だが、見つからない。最悪の展開になった事を悟った。 元々、名うての暗殺者だった兄貴の最も得意とする闘法…『サイレント・キリング』 その隠行術は、俺ではとても察知出来ない。 (なんとか探さなければ!) 焦りは、さらなる動揺を呼ぶのであった…
チビッコは、大嫌いな油揚げを顔にくっつけられて、怒りに流されてしまい、周りの状況に気付くのが遅かった。 『しまった…やられたっす』 ルルの周りに飛び交う蒼い炎を見やる。 「狐火ッすか…・・・?!?!」 『鼓前wまだまだつめが甘いぜ?!狩場では… 油断禁物・・・挑発ノリノリは厳禁だぜ〜〜〜〜!!』 激しい稲光を起こした精霊がチビッコに襲い掛かる。 「ちょっ…!」 チビッコが避ける間もなく激しい轟音が森に響いた。 ”ドォォーーーーン” ドス黒い爆煙が二人の姿を隠す。 『な、何が…!?』 るるの動揺の声が聞こえる。
「るる、”紅”で相殺しちったから、精霊、ごめんな〜w」 チビッコは、寸でのトコロで間に合ったのか、巫女服の懐から出した一枚の魔法札『紅』を発動させていた。”紅”は、るるの式雷牙を飲み込み、その副作用で轟音と黒煙が発生したのだ。 そして、チビッコは、さらにもう一枚の魔法札を出した。 (今度は、俺ッス!) 「威力が弱いッスが…”爆炎地獄”!!」 今度は、チビッコが真っ赤な炎を繰り出す。 赤い炎は、まだ収まらない黒煙の中を小さな炎の渦となり、ルルへ向かっていく。 『うわっちっち;』 ルルは、炎の渦をその左手に受け、後方へ下がった。 薄れた煙で二人の姿が浮かび上がる。
「ちっ、やっぱり、ダメだったっすか」 焼けたルルの左腕から、紐の千切れた腕輪の精霊石がポロポロと落ちる。 『鼓前!おまえ〜、許さん!俺の新品の前掛けと腕輪を〜〜〜!!』 「俺だって、油揚げ投げられたし、この巫女服だって、ボロボロっすよ!」 確かに、チビッコの着ていた巫女服は、既に先ほどの爆煙で真っ黒のボロボロである。 「ちょっと、タンマっすよ」
怒り狂うルルをよそに、チビッコは、おもむろに巫女服を脱ぎだした。 「これじゃ、着ててもしかないのッス」 『ヲイヲイ…、鼓前〜』 さすがに、怒っていたるるも気が抜けたらしい。 数秒で通常のタンクトップと短パン一丁姿になってしまったチビッコは、 改めてその大剣を握り、構え直す。 「さ、おっけっすーwもっかい、行くっすよー★」 残った赤い片目が、さらに赤く鮮やかさを増す。 そして、間を空けずに、ルルの前に踏み込んだ。
リトの放った一陣の風は防御姿勢を取る私をすり抜け背後の壁に吸い込まれるように激突した。 振り返ると軽い振動と共にその衝撃に耐え切れなくなったドーム状の屋根の一部が剥がれ落ちてくるのが見える。同時にリトがこちらへと向かって走り込んで来る。 通常の人間で有ればこので状況判断から行動へ移るまでのプロセスの間に攻撃を受けて居ただろう。 「行けるか!『氷壁抗符』『金鎖縛符』!!」
一瞬の出来事であった。左右両手に残り総ての呪符の束を構えると身体の前で交差させ背後と前面へと呪文を唱えながら投げ付けたのである。 背後へと放たれた『氷壁抗符』は巨大な氷壁となり落下物と相殺し前面へと放たれた『金鎖縛符』は数珠繋ぎとなり金色に輝く鎖へと姿を変えリトの身体に絡まり締め上げる。 「ハァハァ・・・なかなか考えたがそう簡単には隙は作らんよ」 魔力の大半を消費し肩で息をしつつも腰の刀へと手を伸ばし左手で鎖を手繰り寄せて行く。
いけると思った。 致命傷とはいかなくても、傷は与えられるはずだった。 「行けるか!『氷壁抗符』『金鎖縛符』!!」 なのに、叫びとともに生まれる力。 ひとつは背後の壁を凍りつかせ、背後の危険を消してしまう。 そして前方にむけられたのは、金色の鎖。 かわそうとするが遅く、あっというまに自由を奪われる。 ヴィンスは肩で息をしつつも、確実に鎖をたぐり寄せていく。 片手は腰の刀に伸びており、このままでは間違いなく負けてしまう。 少し考えて、この際少々卑怯な手を使うことにした。
「ヴィンス殿…痛い…… もう少し…ゆるめてくれない……?」 事実鎖は身体に食いこんで痛みを与えてくる。 苦しそうに顔をしかめて見上げて懇願する。 演技半分、本音半分のその言葉は効果あったらしく、 ふっと拘束する力がゆるんだ。 瞬間、ありったけの力をこめて強引に鎖から抜けだすと、 そのまま思いきりヴィンスの腹部に蹴りを入れた。 思わず身体を曲げるヴィンスから素早く距離を置く。 「ちょっと、ずるかった、けど…… こんな形で、負けたくないから、ね」
にこりと笑うと、刺突用の短剣に持ちかえる。 痛みを悟られぬよう浅く呼吸をくりかえしながら、 彼女はゆっくり間合いをとった。 もう一度懐に飛びこむ勇気はない。 おそらくむこうもさほどの術は使えないだろうが、 どんな隠し手があるかわからない。 『もう少し…保てよ』 きしむ身体に声をかけ、前をきっと見据えた。 ――もう少し、だから。
近くの木に飛び移り、身を隠す。鎧を脱ぎ捨てながら… こうなった以上、鎧は邪魔でしかない。ガントレットとグリーブのみを残す軽装となり気配を絶つ… かつて、一度として標的に察知された事のない我が穏行術、如何にクリムゾンとて、察知は難しいだろう… 「…さて…少しずつ、戦闘力を削いでいくとしよう…」 剣を鞘に収め、左手で腰の後ろのダガーの一本を抜き、クリムゾンの様子を伺う…完全にこちらを見失ってるらしく、表情から僅かに焦りが見える…が、すぐにマゴつくのを止めると、剣を地に突き立て動かなくなった。
どうやら、こちらの出方を待つ方針のようだ…賢明な判断と言えよう…ただし、俺が相手でなければ、だが… 「…さあ、行くぞ…まずは『足』からだ…」 言って、隣の木に向かい跳躍する。同時に、魔力を集中させクリムゾンの『居る方向』へ雷撃を撃つ。 木に跳び移ったところで、2〜3発撃ち、また木に跳び移る。その時にも異動しながら撃ち、常に一箇所に留まらぬようにする…
クリムゾンが、あの魔哭剣を持っている限り、俺の魔法は通用しない。それは百も承知… クリムゾンの周りを二周ほどした時点で仕掛ける事にした。 クリムゾンの手前に向けて、雷撃を二発撃ち、すぐさま今度はクリムゾン本人に向けて撃つ… 間髪入れず左手のアサシン・ダガーをクリムゾンの『顔に向けて』放ち、同時に右手は太腿のニードル・ダガーを抜く… 3本同時にそれをクリムゾンの左太腿の鎧の無い部分に向けて放った… フェイクと時間差…この攻撃を避けた者は、これまでの記憶に無い…
「ぐふぁ」 リトの機転の利いた一撃で思わず身体を曲げる。本気の戦いに手抜きは無用と言うが相手は女性、一瞬の躊躇いにより形勢は逆転しつつあった。 「や、やるな・・・だが!まだまだぁぁ『二刀幻影乱舞殺』」 腰の『無銘二刀』を抜き放ち二刀流に構えリトの間合いへと即座に飛び込んだ。
「なぁ・・・あの一撃が効いていないのかっ」 リトは素早く鉄扇を開いて防御姿勢を取る。最初の一、二撃目の左下段から上方への攻撃と右中段斬りはするりと回避される。三撃目の左上段斬りを防いだ際に鉄扇に交錯した刀は根元から折れた。しかし、四撃目の右からの突きと返す刀での上段斬りによって彼女の和服はちょうど腹部から胸にかけてを斬られる形になる。 六撃目の下方への上段斬りを見舞おうとした際、腹部に激痛が走り一瞬動きが鈍る。それを見てリトは閉じた鉄扇で刀の腹の部分を叩きいとも簡単に折ってしまう。 「くっ・・・やはり無銘刀ではこれが限界・・か」
これにより攻撃手段を失い、腹部を押さえながら後方へと退避する。どうやら腹部へと受けた一撃により北方の大陸で受けた拷問の際折られ脆くなった肋骨にまたヒビが入ったらしい。 「なかなか若い時のようにはいかんようだな(微笑)この古傷だらけの身体が疎ましいわ!」 武器を失い魔力も尽き古傷の痛みで立つのもやっとの状態でもまだ彼の眼光は鋭く輝く。構えを解き、無心になりリトを見据える。 「さぁ来い・・・私は逃げぬ!」
素早く間合いをとれば、ヴィンスは腰の刀を抜いて二刀流の構えをとる。 斬り合いとなればこの剣では分が悪い。 慌てて鉄扇を開き直し、応戦にそなえた。 さっきの一撃が効いているのか、彼の動きは少し遅く、 体術に自身があまりない自分でもなんとか対処できた。 が、何度めかの交錯で、せりあがってきた刃を避けきれず、 胸のあたりの布が思い切り引き裂かれ、地肌を露出してしまう。 「……きゃあぁっ!!」 かぁっと頬を朱に染めてる悲鳴をあげると、 攻撃の手がゆるんだのを見逃さず、勢いにまかせて刀を折る。
強引に胸の前を合わせて肌を隠すと、こんな状況だが拗ねたように叫んだ。 「こ、このスケベ、ヘンタイっ!!」 ぽんぽんと言うこちらを苦笑いしながら見るヴィンス。 その顔はだいぶ苦しげになっている。 腹部をおさえている姿に、少々罪悪感が湧きあがった。 真剣勝負とは言え、痛々しい姿を見ると攻撃しづらい。 どうしたものかと思っていると、不意に構えをといてこちらを見据える。 「さぁ来い!」 短く強い言葉。 だいぶ消耗しているだろうに、 その目はまったく精彩を欠いていない。
いくらかとまどったが、互いの消耗を避けるためにも、 はやく決着をつけたほうがいいと思い直す。 罠の可能性も考えたが、 魔力の尽きた今はもう遠距離からの攻撃など不可能だ。 こちらもさっきの攻撃のせいで全身がしくしくと痛んでいる。 時間がたつほど、消耗していくだろう。 それに、細かく考えるのは性に合わない。 すぅっと息を吸うと、彼女は扇を手にして、 もう一度ヴィンスの懐に飛びこんだ。 閉じた扇をもう一度腹部に当てれば、終わる。 ――そう、思ったから。
ルルノが作り出した狐火が鼓前に向かって飛んでいった… はずだった(ぇ しかし鼓前の目線は俺のアヌビスの刃先に呼び出していた 雷の精霊”式雷牙”に向けられていたのだった。 {待て…お前には俺の狐火はアウトオブ眼中?!(大笑} 「ちょッ…!」 {っていうか、少しはびびれよ〜〜〜〜(笑} 次の攻撃を見破られていた?!?!鼓前にそんなことが?!(笑 ルルノは軽い困惑状態に陥ってしまっていた。 そんなことをしているうちに ”ドォォーーーーン” 凄まじい爆発音とともに、どす黒い爆煙が二人を飲み込んだ。 「な、何がァ〜〜〜〜〜?!」 もう何が何だかである。 パニックを起こすルルノの前にさらに 鼓前の攻撃。
視覚を遮る黒い煙の中から真っ赤に燃える炎が渦を巻いて 目の前に現れた。 {ぎょッ!!}ルルノは咄嗟に左手で受け、 「うわっちっち;」 左手にかかる衝撃を少しでも和らげるために後方へ下がった。 幸い威力はそこまで無かったのだが… せっかく呼び出していた雷牙はいなくなってるし 何よりこの日のために新調した前掛けや精霊石の腕輪も 無残な姿と成り果てていた。ガク・・・ オノレ鼓前、ゆ、許さん。 しかし、薄れた煙の向こう。 鼓前もボロボロだった。 「ちょっと、タンマっすよ」 おもむろに巫女服を脱ぎだす鼓前に俺は呆然と立ち尽くす。 「これじゃ、着ててもしかたないのッス」 「ヲイヲイ…、鼓前〜」
あっという間に着替えの終わったタンクトップの鼓前は 晴丸を握りなおし、構えた。 「さ、おっけっすーwもっかい、行くっすよー★」 タンクトップ…やはり兄妹だな…(マテ ふっと頭によぎった言葉はとりあえず口に出さず、 一気に間合いを詰めてきた鼓前に油揚げを投げ距離を取る! 「でい!同じ手は食らわないのっす〜!!」 流石に二度目はないようで(笑)鼓前はそう言い放つと 晴丸で真っ二つに切った。 「ふふふ…wおまいの油揚げは見切ったのっす!」 得意げな鼓前にルルはまたに〜〜っと笑みを浮かべる。 「俺だって同じ手は食らわないっすよw」 そういい ルルは、アヌビスを胸のあたりでクロスさせ 呪文を唱えた。
空気が震え始め、 静まり返っていたはずの森がざわめき出す。 ルルの足元から地が波紋を浮かび上がらせた。 「俺に力を貸してくれ。呪々、炎華…今日はわり〜が どちらもご所望だw」 ズズズズズ・・・足元の地の波紋から 黒い影をまとったものと、真っ赤な業火に身を包む精霊が見え始める。 「今日はもう、ぶっ倒れ覚悟で行くぜw鼓前! 呼び損の(笑)雷牙の恨みはらしちゃうぜw」 鼓前は晴丸を構え、まっすぐその赤く鮮やかに光る目で ルルノを見据える。 「こいッ!!ルル!!」
「何処に消えやがった、兄貴!?」 周囲を見回し、気配を探る。しかし、見つかるワケが無い。にわか暗殺者だった俺とは根本的に違うのだ。 (駄目だ!やるだけ時間の無駄だ…なら、兄貴が仕掛けてくるのを迎え撃つしかねぇ!) そう結論し、剣を地面に突き立て反撃の機会を伺う。兎に角、兄貴の攻撃に素早く反応し反撃するしかない。 もう一つ、手がないワケでもないが…そっちはあくまで最後の手段、だ。 剣に手を添え、神経を研ぎ澄ます…兄貴自身の気配は消せても、他に消せない気配はある…例えば……… 「!?」
「!?」 その瞬間、背後に力の奔流を感じ取った。そう、決して消せない気配――魔力―― 魔法を使う限り、必ずそこに魔力の流れが生ずる。威力が高ければ高いほどに、それは大きくなるのだ。 「そっちか!」 振り向いた俺の目に飛び込んで来たのは、すでにこちらに向って放たれた雷撃… 「なっ!?早ッ!!!哭け、クリムゾン・ブラッド!」 慌てて剣を突き立てる。結界が魔法を中和するが、めくらめっぽうに撃ったのか、見当外れの場所に着弾する魔法もある。 「どっちに行った!?」 次の瞬間、また横合いから雷撃が飛んで来る。 「チッ!魔法の無駄撃ちしやがって!面白ぇ、根比べしようってか!先にバテるのは、そっちだぜ!」
剣をそのままに結界を張り続ける。この結界を張るのに魔力は必要無いが向うは違う。このままなら先にバテるのは確実に兄貴だ。 四方八方から飛んで来る魔法に耐えていると、不意に背中に冷たいモノが走った。 次の瞬間、俺の顔に向って飛んでくるダガー。 「うおわ!?」 間一髪首を捻ってかわす!が、次の瞬間左の太腿に激痛が走り、思わず膝を着く。 「!?痛ッ!!っんだ、こりゃ!?」 見ると棒状のダガー…ニードル・ダガーが3本、太腿に突き立っていた。 「チックショウ、やられた!最初からこれを狙ってたのか!!」 ダガーを抜き投げ捨てる。血がにじみ出てズボンを紅く染めていった。 完璧に兄貴の術中にハマっている。
「なるべくやりたくなかったが、もう四の五の言ってらんねぇ!」 懐から石の欠片を取り出す。―トルマリンの欠片―雷の魔法の威力を高める触媒。 これとクリムゾン・ブラッドのブースト能力を合わせると、凄まじい威力の魔法になる。ただし、身体にかかる負荷は絶大なモノになるが… 「姿が見えないなら、森ごと吹き飛ばしてやらぁ!咆えろ、クリムゾン・ブラッド!」 右手で剣の柄を握り叫ぶ。剣が震えるようにカタカタと動き、紅の魔力が刀身から溢れ出す!次いで左手親指を剣の腹で切り、血を欠片に塗りつけ握り締める。 握り締めた左拳からバチバチという音と共に電撃が走る。それに呼応するかのように剣が放つ光も強くなっていく。
「闇の深淵にて轟き狂う雷よ!彼の者に鉄槌となり打ち付けよ!!」 稲光が走り、凄まじい魔力の奔流が発生する。剣が発する紅の光は、眩しいほどだ。 「魔界粧――雷哭陣!!」 力ある言葉を唱える。刹那、激しい稲光と共に凄まじい落雷が幾条にも渡り発生、大木を薙ぎ倒し、辺りを打ち据える。 だが、まだ終わりじゃない。再び懐から次の触媒を取り出す。 「まだあるぞ!この周囲一帯、焼け野原にしてやるぜ!――煉獄にて荒れ狂うゲヘナの炎よ。其は汝が命に従い、彼の者を焼き尽くせ――」 手を頭上に振り上げると、今度は巨大な火球が数個現われる。
「魔界粧――紅煉陣!!」 唱えると同時に、手を振り下ろすと火球は四方に飛び散り、凄まじい轟音と共に周囲の木を焼き払い、あるいは吹き飛ばす。 「ちょっと自然に優しくねぇが、埋め合わせは後でしてやらぁ。さあ、姿を現せ、兄貴!」 早く決着を付けねばならない。そんなに長い時間は、動けそうもないから…
…予想通り、アサシン・ダガーまでは避けたがニードル・ダガーは避けられなかったようだ。 左膝を着くクリムゾンを見て、それを悟る。 「…さて、次は…―――!?」 クリムゾンの様子を伺うと、懐から何かを取り出している。俺の予想が正しければアレは… そうこうしてる内にクリムゾンが剣の柄を掴み何かを叫んでいる。刹那、クリムゾンの剣から溢れる紅の光… 「…まさか、森を吹き飛ばすつもりか!?となると、ここはヤバイな!」 急いで木から降りる。瞬間、膨大に膨れ上がるクリムゾンの魔力…そして発生する激しい稲光と凄まじい落雷…
辺りの大木が割れ、裂け、倒れ、炎上する… 俺も直撃は免れたものの、ダメージを負ったようだ。異常個所を調べていると、再び膨れ上がるクリムゾンの魔力… 「バカな!アレを連続で使うだと!?負けず嫌いもそこまで行くと頭が下がるな…」 クリムゾンが手を掲げる。刹那発生する巨大な数個の火球… 「アレをまともに受けては一たまりもないな…」 手を振り下ろすクリムゾン…四散する火球…そのうちの一つは、俺の方へと飛んで来る… 「避けきれぬ、か…一か八か…好みではないが、仕方あるまい…」
魔力を集中させる…火球が炸裂する瞬間、俺は自分の前方へ向い、氷の魔法を放ち、後を追う… 炸裂する火球…それに俺の放った魔法がぶつかる…すると、そこへ炎のトンネルが口を開けた… 剣を抜き、躊躇する事なく飛び込む!トンネルはすぐに塞がり俺の身体を、翼を炎が包み込む… 「構いはせぬ…爆風による衝撃を受けなかっただけ、マシというもの…」 燃え盛る業火の中を駆け抜ける…紅く染まる視界の向うにクリムゾンの姿を認めた…まだ俺には気付いていないようだ… 「終わりだ、クリムゾン…」 炎の海を抜け出た俺は、そのまま頭上からクリムゾンへ剣を振り下ろした…
「さあ、姿を現せ、兄貴!」 息が荒い…流石に自分の能力を超える魔法の行使、しかも2連発はキツイ…左足の傷も思ったより深いようだ。 だが、まだ闘える…ふっ、と僅かに魔力を感じた。そちらに目を向けるが、俺の放った魔法の炎がまだ燃え盛っている。 (この炎の向こう側に、兄貴がいるのか…?) そう思った瞬間、炎を纏った漆黒の天使が燃え盛る爆炎の中から飛び出して来た!
「なッ!?」 完全に虚を突かれた…まさか、あの慎重な兄貴がこんなリスクを犯して突っ込んで来るとは夢にも思わなかったからだ! 『終わりだ、クリムゾン…』 兄貴の剣が振り下ろされて来る。 避けられない…剣で受けるのも間に合わない…ならば――― ―――ズガッッ!ベキッ!ミシミシッッ!!――― 鈍い音が辺りに響く…続いて、肉が裂け骨が折れる音… 兄貴の剣は、俺の『左腕の』ガントレットを砕き、肉を裂き骨を断っていた。 そして…俺の右拳は兄貴の腹へと食い込んでいた。
避けられないと判断した俺は潰れるのを覚悟で左腕でガードし、威力よりもスピードを重視して素手で兄貴をぶん殴った。 右拳に、アバラが折れる感触を覚える。 『ぐッ……』 兄貴が苦痛に顔を歪める。その顔目掛けて『左手で』兄貴の右頬をぶん殴る! 吹っ飛ぶ兄貴。そして俺の左腕は、現時点で完全に使い物にならなくなった。 左腕から血が滴り落ちる…左足の太腿辺りも真っ赤に染まっているが、こちらはまだなんとかなりそうだ。 「左腕一本と、あばら2〜3本…ってとこか?…随分高く付いちまったぜ…さあ、もうあんま長くは闘えねぇ。とっととケリ付けようや、兄貴!」 右手の剣を付き付け、叫ぶ…終幕は近い…
「こいッ!!ルル!!」 チビッコは、真っ直ぐにルルを見据える。 それと同時にルルが召還した二体の精霊が動き出す。 「呪々」と呼ばれた精霊は、すぅーっと上に伸びたかと思うと、 あっという間に、二人の空間を黒い煙幕で包み込んだ。 「な???」 今度は、チビッコが混乱する番だった。 「これは、さっきの逆!?」 剣を防御の体制で構える。魔法が不得意なタメ、シールド系の魔法も使えず、 魔法攻撃等は、防ぐことが出来ない。 深い煙の中、気配を押さえつつ、魔力を感じようと必死に集中する。 『甘いな、鼓前!』 そう呼ばれて、とっさに振り向いた。
が、攻撃がくるのではなく…フェイク。 「!!?しまったっす;;」 その逆から、先ほどの「炎華」の攻撃が迫ってきた。 赤い火の玉が、いくつもチビッコ目掛けて飛んでくる。 チビッコは、のけぞる体制で避けるが、さすがに避けきれず、前髪を焦がしてしまった。 「〜〜〜〜〜〜!!!」 ショックを受けている場合では、ないらしく、声にならない声を出しつつ、即座に体制を立て直す。しかし、その間すらないようで、 チビッコはとっさに剣を突き出していた。 ”ガキィィィイン!!” ルルの右手のカタールをその大剣で防ぐ。 しかし、ルルは、その攻撃を繰り出し、二撃目の前に煙幕の中へ姿を隠す。
薄れることの無い黒い煙の中にチビッコは、目を凝らす。 気配を感じ・・・・・ と、そのとき、目の前に何かが現れた。 視界に入ったソレは ”ガーーーーン!!” ナーイスショット★と、言わんばかりに、チビッコの顔面目掛けて飛んできたソレは、どこぞの攻撃で粉砕され、吹き飛んできた大木であった。 「な・・・・・・」 チビッコは、言葉を発することも出来ないまま、その場に崩れ落ちた。 打たれ強いと思っていた体も、顔は弱かったらしい。 『???鼓前ー・・・??』 遠くで呼ぶルルの声が、チビッコの耳には残っていた・・・・。
蓄積した疲労とダメージによってその場から動こうとすれば精彩を欠き逆に隙を与えてしまう。そう考えた私は構えを解きリトへのカウンター攻撃に集中する。吉と出るか凶と出るか、総ては一瞬で決まるだろう。 「貴殿との戦い・・・これで終わりにする!」 気合の一声と共にリトが懐へと飛び込んできた。私は一切の防御姿勢を取らずその攻撃を受ける。 勢いをつけた鉄扇での一撃によってバキッ!っという鈍い音がすると腹部に閉じた扇がめり込むのが見えた。この一撃で古傷の肋骨は綺麗に折れているだろうなと思いつつ、ゆっくりと流れるような時間の狭間で攻撃してきたリトの腕を取りそのまま彼女を抱き締めるような形になる。
「見事な攻撃だ・・・ゴフッ(吐血)もし、甘ったれた攻撃をしてくるようなら私はリトを容赦なく禁呪で焼いていたがこれで満足だ。この・・・勝負、君の勝ち・・・だ」 薄れる意識の中でそれだけ言うと口から大量の鮮血を吐き出しそのままリトに寄り掛かって気を失う。 これにより2人の戦いは終結した。
煙幕に身を隠し、最後の勝負に出ようと構えていた そのとき・・・黒い視界の向こうで何かが何かに ぶつかった音がした(笑) ”ガーーーーーーン!!” 「????鼓前ー…??」 返事がない・・・これは罠? ・・・考える。 鼓前はそんなもんしかけね〜!(笑 嫌な予感に先ほどまでお互いの姿が確認できないほどの 煙幕を出していた「呪々」にそれを静止させる。 視界が開くと、ルルは慌ててあたりを見回した。 「こ!!鼓前?!オイ!鼓前?!」 大樹の根のうえに仰向けになって倒れる鼓前を見つけ、 ルルノは青白くなりながら急いで傍に駆け寄った。
上半身を抱き起こす。 「こ、これが当たったのか;」 傍に転がっている大木を拾う。 結構な重量。これを鼓前は顔面に受けたようで ルルは気を失う鼓前を見て、自分じゃなくて ちょっと良かったななんてことを思った… のは、内緒の方向で。 「しっかし、この傷はプシさには見せらんね〜な(汗; 俺の家で「水覇」(水の精霊)を呼ぼう…; とりあえず…よく頑張ったな、鼓前w」 応急処置を施しつつ思う。 {さすがにちょいひやっとしたぜ。今度やったらあぶね〜かもな} 面と向かっては言ってやらね〜けどw 意識のない鼓前の頭にぽむっと手を置く。 戦いは決着のつかないまま終わった。
きし、と、骨のきしむ音に続き、鈍い音。 そのたしかな手応えを感じた直後、腕をとられた。 反撃の予感に身を固くするが、ヴィンスはただ自分を抱きしめただけだった。 驚いて顔をうかがうと、ほっとしたような笑みにぶつかる。 「この勝負…君の勝ち……だ」 そうヴィンスが言った直後、突然腕に感じる重みが増えた。 一瞬不安にかられたが、気絶しただけとわかり安心する。 「う……重い……」 慌てて力をこめたものの、怪我をした状態で男性を支えることなどできず、 結局その場にすわりこんでしまう。
「まあ、しばらく待てば、誰かくるかな……」 骨折した部分を簡単におさえると、そっと自分の膝にヴィンスの頭を乗せる。 とりあえず命の危険はないだろうから、少し待ってもいいだろう。 口もとの血をぬぐっても、彼は起きる気配もない。 自分もこのまま気絶睡眠したいところだが、そうもいかない。 ヴィンスのほうが年上なのだが、こうしているところは子供のようでかわいい。 無意識にやわらかく笑みながら、乱れた黒髪を梳き、小さな声で呟いた。 「お疲れさま……」
炎の海をかいくぐり、クリムゾンへと肉薄する… 虚を突いたハズのその攻撃は、しかし、クリムゾンを戦闘不能へとは追い込めず…それどころか、無防備な腹部に強烈な一撃を受け、顔面をも殴打された… 転倒には到らなかったが、かなりの勢いで殴り飛ばされた… ―アバラが2本…いや、3本…そして頭部…顎を強打…膝に少しきている…即座には回復不可能―
即座にダメージを推し量る…クリムゾンの肉を斬らせて骨を断つ戦法に手痛いダメージを受けた…が、ダメージそのものは客観的に見てもクリムゾンの方が大きい。 このまま押し切ってもいいが、相手が相手だけに確実性を高める事にした。 「まさか、左腕を犠牲にするとは、な…無鉄砲で負けず嫌いなのは相も変わらず、か…―――…これが最後だ…お前に防げるか…?」 言って、左手を顔の前に持ってくる。その中指には、まるで闇を凝縮したかのような漆黒の石がはまっている。 左手を地面に置き、言葉を紡ぐ…指輪の力を解放する言葉を…
「昏き冥府の底に埋もれし、大いなる闇の王…我鍵をもて門を開く者…古の盟約に基づき、その一欠けを今此処に現したまえ!」 刹那、指輪から『光』が溢れる。何よりも昏き、漆黒の光が… 光はやがて収束し、次の瞬間指輪から球状に広がり辺りを闇へと染めていき、やがて辺りは静寂と闇が支配する夜へと変わった… 「数分…この闇は数分で元に戻る…」 翼を広げ、そして今度は己が身を包み込むようにたたむ… 「次が、お互い最後の一撃となろう…死ぬなよ、クリムゾン…」 気配を消し、闇に溶ける…最後の瞬間が迫っていた…
兄貴を殴り飛ばす。それで倒せるとは微塵も思ってないが、それでも少しはダメージを与えたハズだ。 「さあ、フィナーレと行くか、兄貴?」 息荒く言う俺に対し、兄貴は左手を俺に見せるように顔前に持ってくる。 その中指には、まるで闇を凝縮したかのような石の嵌った指輪がしてあった。 『…これが最後だ…お前に防げるか…?』 言い、左手を地に着け何かを唱える兄貴。その瞬間、指輪から『黒い光』が溢れ広がっていく…そして、辺りは闇に包まれた…
雨さえ降っていなければ、木がまだ燃えていたかも知れない。 だが、もうほとんど消えかけている…辺りは、夜の闇が支配しつつあった。 『数分…この闇は数分で元に戻る…次が、お互い最後の一撃となろう…死ぬなよ、クリムゾン…』 同時に兄貴の姿が闇に溶ける…気配が完全に途絶えた… (どちらから来る!?考えろ!俺なら、どちらから攻める!?どう攻める!?) 目を閉じ、意識を集中させる…最後の一撃を放つべく気を練る…
次の瞬間、俺の『左側の』闇が動いた…いや、それは闇に紛れた兄貴だった! 剣を振り上げ襲い来る兄貴、だが俺はこれを読んでいた! 「そっちから来ると思ったぜ!俺の負傷してる左側からなぁ!!」 身体を捻り、魔力を気と混ぜ合わせ剣に乗せる。 「喰らいやがれ!裏奥義・竜絶閃!!」 渾身の力を込め、叩き付ける!兄貴の剣は、激しく回転し宙を舞う。そして俺の剣は―――大地を叩き割っていた… 『…幕だ、クリムゾン…』 背後に回った兄貴に、喉にダガーを突きつけられ囁かれる… 「チッ…今日こそは、勝つつもりだったのに、よ…上手く行かねぇもんだぜ…」 兄貴の剣が地面に突き立つ。その瞬間、俺は意識を失った…
激しい戦いがおわり、雨はやもうとしていた。 「なかなか激しい戦いだったようケロネ。おいらも危うく巻き込まれるところだったケロ」 大きな葉っぱを傘にしていた蛙は傘から顔を覗かせる。 「雨のやんだケロ」 空からは晴れ間が覗き、森には光が降り注ぐ。 「と、すこし時間を延長した部分もあったケロも、 これをもって、第2回ガッツオバトルフィールドを終了するケロ」 蛙は高らかに宣言した。
そのとき、選手たちが身に着けていたスカラベ(のようなもの)が光りだした。そして、選手たちはその光に飲み込まれる。 光の消えたとき、そこには選手の姿はなかった。 「みんな、森の外へと転送されたようケロネ・・・では、おいらも戻ろう…」 蛙はつぶやいて、自分のスカラベ(のようなもの)を取り出す。 いつの間にか角が生えていた。 「煤v 森の入り口にて、衰弱しきった蛙がさまよい歩いているのが確認されたのはその1週間後のことであった。
これをもって、ガッツオBFは終了とさせていただきます。 明日・明後日に、出場選手の登録票と、この戦いの内容を文都のHPにアップさせていただきます。 みなさん、このイベントに参加・協力ありがとうございました。 それでは、次回のBFでまたお会いしましょうー!
「…幕だ、クリムゾン…」 クリムゾンの喉元にダガーを突きつける。 『チッ…今日こそは、勝つつもりだったのに、よ…上手く行かねぇもんだぜ…』 クリムゾンに跳ね上げられた剣が突き立つ…その瞬間、クリムゾンが崩れ落ちた… 「…昏倒したお前を運ぶところまで、初めて会った時と同じか…お互い、あの頃と大して変わっていないのやも、な…」 意識の無いクリムゾンを担ぐ…
「…もう、俺が教える事は無い、か…嬉しくもあり、寂しくもある、な…」 男の事を良く知る人間がいたら、今の彼を見てきっと驚くだろう… 鉄面皮の男が、笑っているのだから… 「さて、俺も鍛え直しだ…まだ、クリムゾンに負けてはいられぬから、な…」 気が付けば、闇も晴れ、雨もあがり始めている… 俺の中の闇も、いつかは晴れるのであろうか…