落城の瓦礫の中から見つかった一冊の手帖。すこし汚れてしまったけど、変わらずあなたの日々を綴るこの手帖。 この手帖に貴方のお仕事でのこと、家族とのこと。 日常のいつも変わらぬ出来事から、ちょっと変わって出来事。 世界で起きていること。 みなさんの言葉で、この手帖を紡いでいきましょう。
今夜は、風が強い ようやく復興に向けて動き出したこの国。 王座に座するかの者は違えど、民は未だ失われることはなく… けれど、それがいつまで続くのかは闇の中。 会議室で崩壊前の仲間たちが無事なのをざっと確認すると 道化は早々に帰路についた。 そして自宅の中で物思いにふけりながら、現在に至る。 この国の行く末を 仲間たちの行く末を 自分自身の行く末を… 考えても、今はまだ答えなど見つかるわけもなく。 ふと外を見やれば春の嵐。 生暖かなその風は、不安の匂いがした。
「祈る」ことが多くなりました・・・。 神に、という訳ではなく。 何を、ということもなく。 今日も銀河の世話をして、畑に水を与え、魔法鍋をかき回して、コロシアムで鍛練し・・・今までと変わりない様に見える日常なのに、何故か不安が膨らんでいくのです。 ・・・ただ、その不安を掻き消す為だけに祈っているのかもしれませんね。 今日も祈りましょう。 私たちの小さな幸せのために・・・。
また一日が終わる… 「無」は何よりも大きくて、「不」は何よりも強い 「非」は何よりも動かしがたく、「未」は何よりも確かなものだ しばし… 捨ててきたものを、拾いにいくために
華も咲けば・・・・ 散りゆくのみ。散る姿こそに雅を感じる・・・ 散り際の姿を鏡で確かめる。 我はどうであろうか・・・・ 一日一日、目の前を通り過ぎていく時間。 一枚、また一枚と・・・・ 雅な花弁が落ちていく。 残る花弁はあと、何枚であろうな・・・
傭兵…それは報奨金に見合う依頼をこなし戦場を駆け抜ける一陣の風 しかし、依頼を決めるのは報奨金ではなく我が身を賭けて剣を振るうに値する主であるかどうかである。 「俺は呪竜王の為に振るう剣は持ち合わせていない…身の振り方を考えるか…」 黒髪のハーフエルフの青年はそう呟いた。何処か寂しげに…
冬の終わりを告げるような強い風が吹き、ガッツオにも春の訪れを知ることが出来る。 そんな春風吹きすさぶ荒城にて、つきを見上げる蛙が一匹。月影を背に浮かぶ船。 ここ数ヶ月のめまぐるしい流れを見て、その中で遠くへと分かれてしまった人の心を想う。 「神是なんぞ」と問いたくても、それに答える人はなし。 争うことのみであるのなら、それは神と言えるのか。人の心をかどわかすのが神なのだろうか。 崩れた城壁の址によじ登ると、風はより一層強く体に当たる。 「ケロロッ・・・ 風誘う 神の名前がありぬだに めぐりめぐりて君に逢はばや 」 歌は風の音に消えてゆく。
が欲しい、と確に祈った・・・黎明の空に。 でも、私には強い肉体も強力な武器も魔法も権力も無い。 『私には何が出来るの?』 自問してみる。 『・・・チカラって・・・何?』 呟いてみる。 ・・・そして気付く。 私に与えられたチカラに。 私しか知らない、私にしかない、私だけのチカラ。 『あるわ、私にだって』 もう直に陽が昇る。 陽都には今日も明日も、また次の日にも陽が昇る。 それは、自然で当然のこと。
決して華などではなかった ながくきびしい冬がすぎ 春のはじめに芽を出した もっと陽光を浴びていたかった せめてつぼみなりともつけたかった 竜によってむしり散らされた芽
国が復興をはじめて数日、俺が禁呪〜転生〜を使うことを思いとどまった翌日。 とりあえずこの姿であがいてみることに決めたものの、いまのところは俺にできることなんぞ限られてるわけで。 ぼーっと会議室の一角に座り込んだまま、通り過ぎる人々を見つめて、溜息混じりに呟いた。 「…家族か、いいなぁ…」 家に帰ってからもどこかうわのそらで、ぼーっと過ごしていた。 そもそも悪魔である俺が感傷にひたるなんてのが、一般的に見れば非常識なことなのかも知れないが。 元々俺はあんまり悪魔らしい悪魔でないという変な自負だけはあったので、そのへんはあまり気にしないことにする。
けれどまぁ、義理でもないかぎり家族なんてのは… 俺の両親は呪竜を召喚した罪で人間達に処刑されたと聞いている。 もちろん俺はそんな噂信じちゃいない。 きっとそれは冤罪であったのだろう…あの日、二人は近隣の国に出没した呪竜を倒しに向かったのだから。 それでもまぁ、処刑されたのは事実らしいんで…俺には親がもういないことになる。 じゃあ兄弟はどうかというと。
…それなんだよなぁ。 どうやら俺には、ひとりだけ兄弟らしきものがいたらしい。 兄か姉か、弟か妹か…何も記憶にないのだけれど。 間違いなくそれは、血のつながった兄弟であって。 どちらが先に生まれたのかも覚えてないけど、生まれたときからずーっと一緒にいた存在で… 呪竜騒動がおきてからというもの、両親の夢やその「兄弟」の夢をよく見るようになってしまった。 きっとそれは、俺が両親や「兄弟」を呪竜による騒ぎの中で失ってしまったことに起因するのかもしれないが。
ふぅ、と軽く溜息をつき、俺は考えるのをやめた。 ふと、その手が無意識に触れていたものに気付く。 それはいつも肌身離さずにいた、鍵型のペンダント…俺の「兄弟」が、家族みんなで一緒に過ごした最後の俺の誕生日にくれたもの。 翡翠色のその鍵の中央には、本物の翡翠が埋め込まれている。 本当は紅い色の石にしたかったんだけど、と「兄弟」は言っていたような気がする…俺の眼と、同じ色にしたかったのだと。 俺はなんとなく、その鍵を店先にかけて飾ってみた。 いつかもし、俺の「兄弟」が通りかかってそれを見つけたら…気付いてくれることを願いつつ。
冬過ぎて 爪あと残りし大地にも 根は残るかと 言問えば 蕾つけたし 言の音かえり 愛しく掌(て)にぞ 土をすくえり ただ目を閉じ もの思ふ
瓦礫に埋もれた王城。一月前にも見た光景だ。 ガラガラと崩れたそれを片付けながら、小さく溜息をつく。 実のところ。 落城して、国王が派遣されてくる、と聞いて。 悪くない、と。 そう思った。 いや、どちらかといえば確信に近い。良い機会だと。 この国は幼すぎる。日数ではなく、性質が。 他国から多くを学ぶべきなのに、その他国がそもそも遠かった。 幼いままに育ったこの国にとって、人の執政を見るのは勉強になる。 来る人数にも寄るだろうが、間違いなく得るものはあるのだろう。 そこまで考えて。 大切なことに思い至って、苦笑した。
自分の頭の中には、奪還の文字がない。 無理だから諦めるのでも、侵略者に迎合するのでもなく、単純に。 話を聞き、一つ一つ考えるまで思い至らなかったのだ。 奪い返すより馴染んだ方が早い。 無意識にでもそう思っていたのだろうか。 いつの間にこんなに打算的になったのかと、思わず笑った。 しかして、思い返せばこの確信は一年前と同じ。 あの、革命に抱いたものと同じ。 あの時の確信は、最後の最後で悪い方へと外れてしまった。 小さく、祈る。 たとえどう動いたとしても、この国が倒れることの無いことを。 人が、悲しむことの無いことを。 後悔は、未だ消えない。
蕾つけ 風に揺らめく 草の音に 聞くとは無しに 耳を澄まさば 童草踏み 遊ぶを知りて 静に起(お)こりし 虫の音聞こえん 故に応えし 我が胸の音(おん)
目が覚めたのは丘の上だった。 「…悪い夢を見ていた気がするわ…」 起きあがって、視線を下ろせばそこには大破したガッツォの城。 その周囲で皆が忙しく城壁を直しているのが見える。 「…俺も早ぅ、あすこ行かんとなあ…」 作る事直す事の苦手な闇天使だけれども、それでもどれだけ小さくても力は役に立つはずで。 陥落するまでひたすらに壁を塗り続けた1週間前を思い出す。 「…………」 無残な瓦礫。 どうなるかも解らない明日。
「…また、泣いてるんやろ」 空を見上げた。 そこに思い描くのは同い年の少女。 そしてこの国で出会ったいろいろな人。 「…泣け、…迷え、どれだけ叫んでもええ、最後に何か見つけて前を向けば今の痛みは糧にしかならん」 どんな明日が待っていても。 自分のやりたい事ひとつ解っていれば生きていられる、まだ歩ける。 「…せやけ、俺みたいには、なるな…」 こんな時にも泣けない程、何もかもどうでも良く諦めてしまうような、そんな人間にお前はらはなるな。
「…国を、…愛していた頃が懐かしいよ、お前らを見てると、…自分もそうじゃないかって錯覚すらする。せやけどこんな時はよぉ解るわ…俺は、国なんかこれっぽっちも愛してへん…」 だから泣かない、陥落なんてどうでも良くて。 ただ悲しいのは、笑顔の少なくなった会議室、何処からか聞こえてくるすすり泣く声。 「…俺が愛してるんは…」 たったひとつ。 「…俺が大事やと思う奴、それだけ、や…」 何もかも棄てて来た自分にただ一つ残された心。 それだけ全てで。 だから何かを、放り投げてしまった気がした。
それは落城前の出来事だった。 その日も呪竜の攻撃が続き、王城にある会議室もいつもより人が行き交った。 その中で久しぶりに見た青い髪の青年を見つけた。 「ソフィさ!!」 青年は、にこやかに「こっそり帰ってきました」と告げた。 ちびっこは、それが嬉しくて嬉しくてその場で飛び跳ねたくらいだった。 それから急いで勤務を済ませ、青年の家へ駆け込んだ。 そして、知ったのだ… この地を去ってまう事を…
ちびっこはすごくショックだった。 同じ団体で知り合って、大聖堂で集まったり、毎晩のように団体の会議室行っては一緒に騒いだ仲間だからだ。 親友がその青年がすごく好きで、夜にこっそり二人で青年の似顔絵を描いたりもした。 そうやって、長い時間を共にした仲間がいなくなる… その事実がとても寂しいものだった。 引き止めることはできない。 それがその青年の意思だから。 だけど願う… 青年の幸と共に いつかまたどこかで会えることを…
少々長いのでシモン殿了承の上URL貼り付けにて失礼 http://diacjun.hp.infoseek.co.jp/kagi.txt
その日は、ちびっこは会議室と大聖堂と駆けずり回っていた。 忙しければ、その間だけでも忘れると思っていたから…。 陽の出るうちが少し暖かくなった気がする。 ちびっこは、そんなことを考えながら家路についた。残りの依頼を仕上げようと、アトリエに篭もった。武具を作る道具を片付け、デザイン画を描く準備をした。 「武器は俺の弱さの部分っすか…?」 走らせてた鉛筆が自然に止まる。
迷い道。 物事を考える余裕が出ると、すぐにそんなことを考えてしまう。 自分の弱さ。 強くなりたいと願った。力ではなく、精神力の強さが欲しい…。 だけど、今は迷いの方が多い。 いつか開けるハズ…だから、それまでは迷って足掻いてみよう。 また前を向いて歩ける日まで…。
こほっと漏れた一つの咳が冷えた空気を振るわせる 夜の城の奥深い部屋 机で書類を書きながら咳をする こほ、こほ 咳とペンが走る音だけが響く中、時間だけが過ぎていく 「無理するからですよ苺さん」 唐突に響く声 「仕事は仕事、きちんと終わらせないと、ですよ」 苺さんとか言うなと言いながら振り向く そこにいるのは少年 中空に浮きながら笑っている
少年は何処からとも無くクッキーを取り出すと勝手に椅子を移動させて座り込む 「今日はどうしたのです?ルシルさん」 暇人め、と一言加えて机に向かう私に暇人ですからと笑うルシル 「特に用は無いのですが、落城して苺さんが自殺でもしてないかなと」 十分な理由の気はしたがそれは言わずに手をひらつかせる ルシルは少し怒った顔をして直ぐに笑顔に戻る 「そうだ、苺さん何か詩ってたもれ」 思いっきり顰めた顔をルシルに向けて咳をする そして書類を指差してみるがルシルは笑顔 ため息を一つ付いてクッキーに手を伸ばす 非難するような顔をされるが気にせず一つ口にする
とても甘い、しかしその甘さの中に苦味を感じる クッキーの味ではなく、体調が悪い性でも無く ただ、そう感じて口を開く 彼が倒れ彼女が倒れあの人が倒れこの人も倒れ 何時の間にか又一人 彼が現れ彼女が現れあの人が現れこの人も現れ 何時の間にか又大勢 ただ立ちただ立ち竦みただ立ち尽くす 彼は何処へ行ったのだろう彼女は何処へ行ったのだろう 光の差す道に ただ一人
「ネガティブですね〜苺さん」 心底楽しそうに笑うルシル 何時の間にかルシルが飲んでいた紅茶を奪い一口飲んで苦笑 「まぁ別に珍しくも無いでしょう?」 ルシルは消えていた クッキーの食べ後だけを残して そして私は咳を一つして書類を書く為机に戻る 咳をして 咳をしながら
その日は、帰宅が遅くなってしまっていた。 ちびっこは、暗い闇を駆け足で通り抜ける。 小さく灯りのともる自宅へ辿り着いたちびっこは、自室で自分宛の荷物を見つけた。 包みを広げてみると、黒い魔法衣が届いた。 親友にとお願いした品だった。 「・・・・・っ」 ちびっこは、込み上げてくるものを我慢して、その代りに手にしていた魔法衣を抱きしめた。 長い間を共にした青き炎。 『ありがとうっす』 ちびっこは、小さく呟いた。 感謝の念が絶えず、同時に冥界へ行くと決意した彼を想う。 いつの日か・・・。
閉ざされた扉の前で まだ幼いと思われる少年が一人たたずんでいた。 部屋の鍵を新しく決まった部屋の主に届けて来た所だ。 「一ヶ月だけのつもりが…」 年齢に似合わない苦笑を浮かべながら少年はつぶやく 三ヶ月半その部屋の窓から世界を眺めて暮らして居たのだ。 「冬を越すには良い部屋だったかもしれないな。」 「もうすぐ春が来る…」 暖かくなったら旅立とう、 そう心に決めながら少年は城を後にした。 けっして軽い足取りでは無いが、振り向く事もなく…
国内が騒がしいあいだに、世界情勢は変化を見せ始めていた ゼロスパイア率いる一団の中で、ゼロソードに続きゼロウォンが 倒れ、ゼロミーさえもその圧倒的な力の前に傷付き始めたという… そう、あの天空に浮かぶ光の船の力で 郊外に漂うそれは「聖なる裁き」と呼ばれる力をもって 彼らを追い詰める 「…ゼロスパイアとやらの一味も 『Phantom Of Nightmare』の奴らも…俺は嫌いなんだがな」 光の船を見つめつつ、道化は呟いた
彼にとってはどちらも同じこと。力のみによって己の道を為し 邪魔するものは全て排除する…そこにある人々の暮らしや、大事に思うもの…そういったものを全て呑み込んで、支配を拡大する そういうやり方はやはり虫が好かない。 それでも、奴らが決して破壊や人々の不幸そのものを望んでいるのではないことも、道化には理解できていた 全ては己が信じる道のため…ひいてはそれは、世界に真の平穏を もたらすと信じて。 「悲しきは、盲信かな…『絶対』など、ありやしねぇのに」 「…それでも、アレよりはまし…なんだろうな」 道化が睨み付けるは、天空に浮かぶ光の船
「浄化のため」と偽ってゼロスパイアをそそのかし 世界を破壊と混乱の渦に巻き込んだ張本人… それは更に「アースの使徒」を名乗り、ゼロスパイアに対抗しようとする大地の民をもそそのかしてあの光の船へと呼び寄せた その名は「聖神ゼロアース」 「気に食わねぇな」 正体がアース側であろうと、アースに対抗するものであろうと何でもいい 何でもいいが、アレはまさしく許しがたいことをしたと思っている ゼロスパイアたちよりも、『Phantom Of Nightmare』の連中よりも、ずっと許しがたいことを この道化は、そういうものが大嫌いだった
「何が“聖神”だ…神だったら全てを欺いてもいいってのか?」 静かな怒りと憎しみを込めた瞳は、普段より一層深く赤い… まるで、血の色のように その瞳がすぅ、と細められ、色彩も元通りになったのはその数瞬後 「ふん…まぁ、せいぜい足掻くさ 今回のことで大地の民はどう思ったか…理解できるまでな」 ゼロスパイアをそそのかし、彼らを「破壊者」として大地に送り込み、それを討伐することで自らを崇めさせようとした「聖神ゼロアース」… しかし、大地の民とて、そこまで愚かではない。民を騙し、自らの配下の者すら騙して滅ぼすような者を、どうして崇めることができようか?
「“神”なんてのはな、それを信じる“民”あってのものなんだ… 誰からの崇拝も受けられぬであろう者が いつまで“神”を名乗れるかな?」 そこまで言うと道化は、天空に浮かぶ光の船に背を向けて歩き出す 「…そうさ…“神”は死んだ」 呟く言葉に それでも何もすることのできない自分の無念さを隠しながら
いつもと変わりない姿で、そこに佇んでいる…。 先日の呪竜テロの激戦による城壁の傷みも、 だいぶ修復されつつある…。 しかし、この城も変わらないのは見た目だけで 悠久の時の流れに乗って、次の姿へと変わり始めようとしている。 その変化に巻き込まれた人々に、以前の様な、底抜けの笑顔は無い。 運命にあがなう者、戸惑う者、受け入れる者…。 それぞれの想いを胸に秘め、今日という日を生きる。 日も暮れて、人気の少なくなった城門を背に 自分が旅人であった事をふと思い出す…。
落城後、おうちでぼーっと過ごすことが多くなった。 喪失感なのか、それとも言いしれない不安なのか… 王宮もまだ壊れたところが多く、閑散としている。 城の中まで風が吹き込み、砂埃が舞う。そんな状況だ。 「お城が直ったら掃除しないとにゅー」 溜息をひとつ。 今日はずいぶんと風が強いらしく、外を眺めると木々が大きく揺れているのがわかる。 やめればいいのに窓を開けて顔を出してみると、長い髪が大きく巻き上げられる。 「もげー!」 埃が目に入り、たまらず目を閉じる。 あわてて窓を閉めようとするが目が開けられず、手が空を切る。 刹那、何かが顔を直撃した!
「もぎゃー!」 大なものが顔を覆った…ような気がした。 何か、どばーっていう?大きな音がしてパニックになり(どばー? たまらず腰を引き、後ろへ倒れ込んだ。 「もげー!」(ごろごろごろごろ(どかっ 壁にぶつかって、やっと止まったようである。 「もげっ、窓を閉めるですー」 顔にへばりついていた物体を無意識にすみっこへ投げると、目をこすりながら窓を閉める。これでもう安心もげ。 何かを投げたすみっこ。そこに目をやると。 それはどうやら新聞紙のようだった。 「呪竜大量発生!!」 そんな文字が踊っているところを見ると、ごく最近の新聞ではないのは明らかだった。
(いつの新聞もげ?) そんな興味にかられて新聞を見るが、 日付のところが丁度破れているようでよくわからない。 何か手がかりになるようなものがないかと思い、 新聞を少し読んでみることにした。 「ん〜新聞紙一枚だけじゃ、よくわかんないもぎゅ」 裏面はまるまる1ページ旅行の広告ページ。 風光明媚な観光都市や美しい風景と共に、おいしそうなご馳走の絵。 そんな中に、こんな記事を見つけた。 『美しい島の浜辺でのんびりバカンス!旅人の国イスラ・イスラ』 「ディアルゴといえば、だぶちんのいたところもげ…」
友人であるZZがガッツオに来たのは1ヶ月半前。 1年以上いた場所を離れるのには色々理由があったのだろうが、 彼が長くいたのだろうから、きっといいところなのだろう(と、想像 「そーいえば雷神丸さんもディアルゴちっくな挨拶を…」 何て言ったかな…風とか海とか何とか(覚えてない 青い海…浜辺でトロピカルジュース…海水浴…のんびりバカンス… 海岸で見る星空はきれいだろうにゅー(ほわほわほわ 最近、あまり外に出てなくてふさいでたからにゅー… …よしっ!! もげぽんもバカンスに行ってリフレッシュもげー!(ごろごろ
準備は整った。 やりかけの仕事を終わらせ、最後の壁塗りも済んだ。 『1ヶ月の休暇』という理由の出奔届も提出したし、 帰ってくることを前提に、妹にお金を預けた。 身近な人にだけ、事前に出奔する旨を伝える。 そして、浮き輪やら水着の準備もバッチリだ。 出奔の挨拶はしない。 別れを言うと、国内の不安な空気に呑まれそうで、怖くなりそうだ。 それに、どうせすぐ帰って来るんだし… さて、今日の日付前に出発するもげー! …しかしもげぽんはミスを犯した。 びぞは、今は海水浴シーズンではないことを、知らなかった…(もげもげ
「ファウストさま、盾持って来ましたっ!」 「いや、あの、ありがたいのですけども・・・」 「今日はゼノスさんのですよ」 「いや、あの、さとみさん?私より・・・」 「それでは、また」 そしてさとみは風のように去って行く 「いや、とても有り難いですけどねー・・・」 実際ここしばらくの散財で食事に困るという事は無いが、節約するに越した事は無い状況 盾を買わずにすむのは有り難いのだが・・・複雑な心境で残された指輪を見つめる ピン、と弾いて手のひらで受けて 「まぁ、良しとしますか」 剣を取りに城に戻る 忙しくてしばらくいけなかったタワーに登ってみよう そんな気持ちで
「って!なんでいきなり!?」 叫びながら疾走 後ろにはひよこ虫の冗談みたいな大群が追いかけてくる 「リハビリがこれはちょっと辛いような!?」 必死にナイフを放ち、剣で切り、爆薬で吹き飛ばす しかし・・・ 「なんで数が減らない!?」 どころか・・・更に増えるひよこ虫の群れ ゼノスの指輪のお陰で痛みや恐怖は感じ無い 心の中でさとみとゼノスにお礼を言いつつしかし状況は更に悪く 「って!?」 正面に聳え立つ壁・・・つまり行き止まり ゆっくり振り返るとキチキチと音を立てて蠢くひよこ虫の群れ 「・・・ええと、痛いの嫌いなんですが。私」 そう呟いた瞬間・・・・・・・・・・ 地面の感触が無くなった
「落ちる!?と言うか落ちてる私!?」 落下感と共に目まぐるしく変わる風景 そんな私の眼前に浮かび上がる一人の漢 「ファウスト卿、貴方も共に悪の」 「カエレ!」 即座に銃を抜き打ち銀髪の漢・・・ヒサメとよばれるその漢の頭を打ち抜く そんなこんなで時間が無くなり地面とご対面 ずどん。と派手な音がして意識が急速に失われていく 暖かな転送の光に包まれながら思った事 (痛いの嫌いって考えてみれば今は痛みなかったんだっけ) 後日、指輪を外したら地獄の痛みだったのだけれども
「さとみちゃん、見てにゅー!!」 ボクの飼い主、とみぴょんの部屋に、お姉ちゃんが飛び込んできた。手に何か紙切れを持っている 「…姉さま、今、私、それどころではっ…」 とみぴょんはここ数日、一心不乱に何かを書き写していて、顔を上げようともしない 「もげー」お姉ちゃん、何か言いたそうだけどなぁ 「…農業大全…コロシアム…ぶつぶつ」 とみぴょん、引越荷物も片づけてないよ
翌日 「さとみちゃん、遊びに行くもげー!バカンスー!」 あ、お姉ちゃんだ。でも、とみぴょんは今、楯のお届けに出かけてるんだー… そのまた翌日 「さとみちゃん、いるかにゅー?」 今日は新人さんの畑を見に行ってます、いつもごめんね、お姉ちゃん…ってボクが謝ってもなぁ…金魚語分かるかなぁ さらに翌日 「さとみちゃん?」 あれ、お姉ちゃん、こんな季節に浮き輪?一緒に金魚鉢に入ってくれるのかなぁ? でも、とみぴょん、さっきまでいたけど、今度は学園に行っちゃってる… 「仕方ないにゅー。伝言置いとくもげー」 …伝言『バカンスに行ってくるー!生活費預けとくにゅー』
あ、とみぴょんが帰ってきた!…伝言見てる… 「うそ、ずるいー!」慌ててお姉ちゃんの部屋に飛んでったぞ 「姉さま、旅行は一緒にって…!」 「う〜ん…でも、さとみちゃん、出かけられるかにゅー?」 「…。」 ボクは知っている。とみぴょんは、3つも仕事を持っているのだ。これで旅行なんか行ったら、おバカンスだ…あ、いや、ボク金太郎… 仕方ないね、とみぴょん 今回はボクと一緒にお留守番だ。うにうにもいるし熊五郎もいるし、ガッツオの仲間たちもいるから、寂しくないよ というわけで 「お土産よろしくー!変なモノ食べちゃだめだよー!いってらっしゃーいっ!」 とみぴょん、手、振り。ボク、しっぽ、振り。
理想のためとは申せど血を流すことを厭わない、 皆さんの考えは理解出来なくて悲しいな、と思いました。 ですが、今は子を持つ一人の父親として。 ……こういう結末しかなかったのでしょうか。 皆さん揃って、こうなるしかなかったのでしょうか? 悲しく思います。とても悲しく思います。 僕はただこの世の隅に生きるだけの、貴方達から見れば 取るに足りもせぬであろう小さな者ではありますが。 名も無き者から、名も無き花の餞を。 願います。どうぞ来世の幸福を。 悔みます。そんな言葉しか手向けられぬ事を。 ――お休みなさい、お嬢さんたち。
(ティターンの欠片残るエジュー郊外に、まだ朝日は差さない。 それでもそっと一輪の白花を置いて、男は小さく項垂れた。 こんな顔は見せられないから、少し家に篭っていよう。 彼らを自分の子供達に重ねて泣いてしまったなんて、 子供たちにもあの人にも言えないな、と思ったので秘密にする。 拳で顔を拭って溜息を吐くと、耳を揺らして冷たい風が吹いた)
珍しくうちに知己が訪れた。 俺がガッツォに来るきっかけを作った女だ。 なんだか珍しく不機嫌な顔で、俺はちょっと逃げ腰になりつつともかく女に茶を出した。 兄様は居ない、それを見計らって来たのだろうけど。 「…なあ、なんでそんな怒ってるんだよ、…悪かったよ親父とか、話さずにいてさあ」 沈黙が恐くて先に切り出したのは俺。 どうもこういう場面は苦手で、いくら見知った知己とは言えそれはどうにも変えようがない。 「…別に、怒ってなんていませんよ。…ちょっと…最近自分の力不足にいらいらしているだけで…」
紅茶を一口飲んで知己は言う。 また何かに沈んでいるらしい、定期的に沈んでは浮くという繰り返し、毎度の事ながら、沈んでいる時に来るのは勘弁して欲しい。 恐いから、外面は良いと知ってるだけに、もう。 「…それに、鳩羽さんの事なんて私に断る必要なんて無いでしょう。貴方の決め事です、私はそれに干渉出来ないし、だからむしろ…良い事なんじゃないですか?」 「…良い、かなあ」 自室に残る猫の手形を見ながら、俺は一つ溜息を吐く。 いや、後悔なんて微塵もしていないんだけど。
「良い事でしょう、いつだって何もかもから逃げていた貴方が面と向かって悩んで決めた事なら。まあ、逃げ癖は私にも原因がありますからアレですけれど…今、貴方がしあわせなら私だって嬉しいですよ」 なんとなく左頬に触れる、見えない目に何かが映った気がして。 でもその感覚はすぐに消えた。 「でもっ」 知己が何やらやっぱり不服そうな声を出したから。 「はい?(汗」
見れば何やらカップを持ったままうらめしそうな視線。 「いいなあっ」 「何が!(汗」 「私もガッツォで遊びたいなあっ」 「なら来いよ!来て好きに遊べばええやん!(汗」 「それが出来たらこんなにじたばたしないですーっ!」 パナルモに響く不毛な会話。 結局何の話しをしていたのか忘れてしまうのもまあ、いつもの事。
世界は動き出した 大いなる災いを巻き起こした存在に向けて それぞれ胸に抱く思いは違えど 目指すところは、おそらくみな同じ… これ以上、我らが生きるこの大地を 神々の思い通りになどはさせない けれど、神の力を擁するものに向かう手立てもないのか 『生贄』に選ばれたのは、欺かれたほうのもの 「…“死人に鞭打つ”ってやつだよな、こりゃ…」 思わず呟く 「それもこれも、“神”とやらの傍若無人ぶりのおかげかねぇ」 おどけた口調、でもその表情に笑みはない
この国にも開戦指令が下された 【Phantom Of Nightmare】の属国である以上、指令そのものは 基本的に受けることになっている もっとも、実際には攻撃そのものは個人の意思に任せられている らしいが 「ルニカに攻撃しろってぇなら、喜んで行ったんだけどな… なんか、いまいちすっきりしねぇぜ」 それでもこの国を守るために、己にできる限りのことをするのだと 道化は以前、自分自身の心に誓っていた 「生き残るために、人様のことまで構ってらんねぇよな… 少なくとも、今は」 俺って非道い奴なんだろうか、と自嘲するけれど
自分自身を 大切な仲間たちを 愛するモノを この国を それぞれの大事なものを失わないように、そのために 今日も戦いは終わらない
いつか言わなければと思っていた。 話だけは聞いていた義父の異大陸の家族に。 言わなければいけない言葉があった。 だけどその夜が訪れるまで言える機会があるだなんて思ってなかった。 「いやあんお兄様ー★お会いしたかったですわー!」 柔らかそうな髪をそれぞれ耳の上で結い上げた、声も姿も明るい少女と出会ったのは迎賓館。 後ろで鳩羽殿が苦笑して「娘ですよ?」と言うのを聞かなくてもそれが誰だか皆に知れていた。 心臓がばくばくと脈打って止まらない、嬉しさというよりも恐怖だと言うと多分怒られるだろうけど。
俺はもうやっとの事でなんとか顔に笑みを浮かべて。 「あー、俺も一回会ってはみたかっ…………妹殿ーーーーっ!!!!!!」 そこを思いきり抱きつかれた。 いくらなりが小さくても妹殿は女子、ああもうだからちくしょう女子は何処に触れて良いものか全然見当がつかんっ! じたばたしている俺を一通り堪能したらしい妹殿はそれから楚々と皆の前に歩み出て、挨拶と何やら持参したらしいプレゼントを皆に渡していて。 ほっと息を吐いた。 どうして怖いのかなんて解ってる。 言わなきゃいけない事もわかっている。
そんな事をぐるぐる考えていた俺の体に、誰かが触れた。 「カッチー君、駄目だよ照れちゃってーv」 「コサ殿!やめろ離せ良いから放っておいてくれーっ!(汗」 と、言った所でコサ殿が離してくれるわけもなく。 あっさりと俺は妹殿の前に引き出されたのだった。 勢い良く飛びついてくる妹殿は、やっぱりなんだかとても小さくて、そして暖かくて。 「その…あのな、女子はそんな簡単に男に抱きつくものじゃない、からっ!」 必死に拒絶しようとしても、体は動かない。 華やかな妹殿は飛びついたまま離れない。
「いやですわお兄様ったらて・れ・ちゃ・っ・て」 眩暈がした。 父様が居て妹殿がいて友人達が居て、それは俺にはありえない光景だった筈なのに。 いつから、どうして、許される事なんて無い筈だったのに。 嗚呼だけど許されるなら…もしも許してもらえるなら。 「 …照れるっていうかっ…………ええと、その…ごめんな…」 「何がごめんなさいなんですのー?」 きょとんと首を傾げる妹殿。 その声が、二度と会えない彼女に似ていて。 二度と棄てたくないと、思って。 「ああいやだって…」
家族を棄てた俺が、誰かの家族を奪っているなんて身の程知らずも良い所で。 謝って許されるだなんて思ってはなかったけれどただ謝りたくて。そんな自分の自己満足でしか無い行為に走る自分がやっぱい嫌いだった。 落ちる沈黙。 俺から静かに離れる妹殿。殴られるかなと思って身を固くした俺に妹殿の声は予想外に優しいもので。 「…お兄様…」 恐る恐る顔を上げると、妹殿は優しげな…そして楽しそうな顔で微笑んだ。
「…父も…兄も…」 迎賓館の入り口を見る。中からは見えないそこに、まだ会ったことの無い義兄殿も居るのだと知って。 ああだけどやっぱり…合わせる顔がない、と視線を逸らした俺に、妹殿は言葉を続けた。 「…めろめろですわ、その発言」 「…………は?(汗」 予想もしていなかった言葉に頭が真っ白になったのがはっきりと解って。 いやええと、殴られるとか泣かれるとかそういうのなら予想していたのだけれど。
妹殿が静かに指差した迎賓館の柱の影で、鼻血を出しながら悶える義父を見たその時、緊張の糸というものがぷつんと音を立てて切れたのがよーく解った。 「めろめろですわ」 膝の力が抜けて立っていられなかった。 なんだか許されるとか許されないとかどうでも良くなってただ笑った。 憎まれていない事がこんなにも安堵する事だなんて思わなかった。 暫く後、異大陸へと帰る妹殿の姿を見送って俺はこっそりと、せめて泣かさないようにしよう、ずっと笑っていてもらえるようにしよう、と…誰かに、何かを誓った。 そんな、夜。
その日は雨だった…。 昨晩、帰宅したときからちびっこの様子がおかしかった。 元気がないというワケではないが、そのまま自室に篭もったまま朝まで出てこなかった。 朝になって、具合が悪いと気付いたのは自分自身だった。 体が重く、頭がぼーっとする。 ちびっこは、たぶん風邪だろうと思い、近くの薬箱から風邪薬を取り出した。 本当は風邪じゃなくて知恵熱なのだろうけど・・・ そんなことを思いながら、薄目で天井を見つめる。 目を閉じるとイロイロな思いがぐるぐると巡り、ちびっこの体調を余計に悪くしていた。 「・・・・・俺は・・・・」
かけていた布団を頭の上まで引っ張り上げ、全てを覆い隠すかのようにうずくまった。 それは、なんだか泣きたい気分がこみ上げて、でもそれを叫ぶことも出来なくて、ただ我慢するだけの小さな姿だった。 「もっと・・・頑張る・・・もっとイロイロなものが生み出せる様に・・・・」 前向きに前向きにと思う。 そうしてないと黒いものが出てしまいそうだからだ。 ちびっこは、頑張るしかないと思った。 また、新たなものを生み出せるように・・・この右手に思う・・・。 気がついたときには、ちびっこは闇に落ちていた。 穏やかな闇で、安らぐこと思う・・・・。 今は、それが大事だと思うから・・・。
「焔、お前暫く兄貴んとこ行ってくれ」 迎賓館での談笑中、突然の兄様の真剣な言葉にきょとんとした。 家を出ろ、と言われているのは解った。 でもどうして、とまでは頭が回らずにただ驚いて、そして頷いた。 「わかった、いつ出れば良い?」 「今すぐだ」 真顔での即答。 そして思い至る。 兄様が今居るボルホコの、問題に。 兄様は、戦いに行くのだ。
「了解」 言うが早いか俺は迎賓館を飛び出して、農業ギルドで加工品を売り払って、すぐに部屋を片付けた。 元々物が少ない上に、…いつでも出て行けるように整えてあった部屋はあっと言う間にからっぽになって。 迎賓館に戻った。 「兄様、用意した、いつでも出て行ける」 回りがなんだか驚いていたけれど、俺は元々決めていたから。 兄様の邪魔にはならないと。 邪魔になるようならばすぐに出て行けるように、だから部屋もいつも閑散としていて。 「すまんな」 苦笑する兄様に、ただ俺は笑う。
「ええよ別に。それより…頑張ってな」 兄様は兄様の守るべきものを守るために。 そんな兄様だからこそ、俺は慕っているんだから。 「片翼クンにも、迷惑かけるね…」 兄様の後ろでアクシス殿が言う、だけど俺はやっぱり笑うだけだ。彼女も、戦っている筈だ、…故郷の為に、自分の愛した国を取り戻す為に。 「ええよ、兄様の行動の邪魔にゃなりとうないし、生活に困ってるわけでもないしな」 それに。 「帰る場所がなくなるわけでなし、それなら何処にでも行くさね」
今まで、俺が居を移すときはいつも何かを捨てる時で。 ずっと、振り向けずにただ出て来たけれど、今回は違う。 兄様はそこに居る、俺は何もかも捨てていない。だから何処にでも行ける。 ただ悲しいのは戦いに行く兄様に何も出来ない事だけで。 俺はだから祈るしかない。 早く戦いが終わる事を。 一日も早くボルホコ山に平穏が訪れる事を。 あの傾奇者の国が、あの日の様に輝けることを。
「うに。ここかぁ・・・・リュトさが領主してる国って〜」 門前にたたずみ、見上げる。仕官許可はもらった。 今回はどんな毒を吐いてるのか少し楽しみにしつつ会議室を回る。 ・・・・リュトさんが毒吐いて無いよ!?なんかえらい人間丸いんですけど!! ツェンバーでの領主時代を知る少年。煽るその言葉の裏に、「自分たちで立ちあがってみろ」という意思を含めた言葉がよみがえる。 「・・・・リュトさんも丸くなったなぁ(ほろ」 初対面で彼に「夕焼け番長って呼んでいいですか」と言い放った少年はちょっと寂しい気持ちだったりしていたが、復興中のガッツオ。力無い自分でもお手伝いしてみようと思ったのでした。
今日はまたガッツオ国内の散歩に出かけた。家は遠いので最近は国内の銭湯に寝泊りしてしまう事が多い。 フラフラと町を歩く・・・俺は住民パトロール気分だが傍から見れば単なる浮浪者のようなものだw 「そういえば、大臣とか募集してたな・・・・」 王宮前の掲示板には募集一覧が張ってあった。そして新体制の自治体についても。 どうやらまだ立候補者は一人だけのようだ・・・。 「全く、人に背中を押される前に立候補してほしいものだなぁ」 自分がやれっ!との突っ込みは俺には通用しない。何故なら人に押し付けるのが好き? などと一人頭の中でボケと突っ込みを行いながら浮浪者は王宮へと入っていった。
春も近いというのに、まだ肌寒い春の昼下がり 会議室の一角でぼんやりしている道化が一人 何かを考えているのか、あるいはただ暇なのか 入ってきては去り、去ってはまた誰かが入ってくる そんな会議室の様子をぼんやりと眺めていた 何事もない…と言えば嘘になるのだが それでも、どこかのんびりとした春の一日 不意に、道化の視界に“闇”が現れた 闇色の鎧、闇色の髪、闇色の瞳… 身体中に“闇”を纏ったその人物を 道化はしばし見つめていた この国でその名を知らぬ者はない 姿と名に“闇”を纏った、王宮の親衛隊長 道化はなんとなく立ち上がり、彼に近付く
「よぉ、親衛隊長殿」 “闇”は無言で目礼を返す、それが彼の流儀 「…何か…?」 静かな声で問い返してくる 「いや、別に何ってわけでもねぇんだけどな」 道化はちょっとばつが悪そうに答える 誰に対しても同じ乱暴な口調、それが彼の流儀 「…そうか…」 “闇”は会議室の掲示板に貼られた記事に視線を戻した しばらく、沈黙が続く 「…なぁ隊長殿、ちぃと聞いてもいいか?」 再び道化が口を開くと、“闇”はその視線で続きを促す 「明確な答えがなくてもいい、あんたの考えを聞きたい… あんたにとって、『強さ』ってなんだ?」 道化はじっと、闇色の瞳を見据えて言った
「…道化師殿は、どう思っている…?」 僅かな沈黙のあと逆に問い返されて、道化はごくほんの僅かだけ考え… けれど、ほぼ即答といったかんじで答える 「『想い』…『渇望』とも言えるかな、俺の場合 何かが欲しい、誰かを守りたい… そーゆー意思が、俺にとっての『強さ』…かな」 最後だけ少し自信なさげに呟いたのは、それだけでは足りないのだと 自覚している証拠なのかも知れない
そんな道化を見透かすかのように、“闇”は語り始めた 「…『力だけでも、思いだけでも駄目なのだ』と… かつて読んだ物語の人物が言っていたな…」 静かに語るその声は、人によっては「冷たい」と また別の人には「優しい」と形容されるらしい おそらく、本人はどちらのつもりもないのだろうけれど 「…力だけでは、暴走する…そして、思いだけでは無力だ…」 「やっぱ、そうだよなぁ…」 道化は軽く溜息をつく おそらく、先の戦いでそれを思い知ってしまったのだろう 思いだけなら誰にも負けない…けれど 自分の力があまりにも不足していた、苦しい現実
「だが…」 再び語りだす声に、道化は視線を上げる その様子を確認してから、“闇”は続けた 「思いがなければ、決して強くはなれぬ」 『それなら、俺もまだ強くなれるのだろうか?』 口には出さず、心の中で問い掛ける 「…最初の問いに戻らせてもらうが… 人それぞれ、持っている答えは違うものゆえ 明確な答えもなく…」 少し思案しているように思えたのは、最も適切な言葉を捜して いたのだろうか 「…人は誰しも、何かしら『力』を持っているもの… 己の力を信じ、己の心を信じ、貫く事… それが、俺にとっての『強さ』だ、道化師殿」 「『力』、か…俺にも何かあるのかな」
その問いには“闇”は答えなかったが その瞳は真っ直ぐ、道化が自分なりの『答え』を探そうとする様を 見守っているようにすら思えた 「サンクス、隊長殿!」 表情にいつもの元気さを取り戻した道化は“闇”に敬礼してみせた その瞳は、つい先ほどまであった漠然とした不安の色が消えている “闇”は最初と同じように目礼すると、入ってきたときと同じ様に 静かに会議室を離れた 再び道化ひとりになった会議室…やがて道化もその場を立ち去った あとに残るは誰もいない会議室、どこか柔らかな、春の昼下がり
悲鳴を あげそうになって。 目が 覚めた。 「……………………ぁ…?」 見なれない天井に、一瞬まだ夢の中かと背筋が凍って。 ドアの外から聞こえた声に、安堵して、息を吐いた。 机の上にはまだ荷解きもしていない荷物。 とは言っても大した量でも無く、明日明後日にはまたアイテム作りに没頭出来るだろう。 半ばずり落ちていた毛布を蹴って、俺はぼんやりと起きあがる。 「…そうやここは…ダークネス殿の、家…」 昨日の夜中に、兄様を見送って、そうして俺は、ここに来たのだ。 まだ動きの鈍い頭で記憶を探る。
そういえば城に住んだのは初めてで、部屋の広さにどうにも慣れない。 俺はいつだって逃げていて、だから。 とりあえず簡単に服装だけ整えて部屋から出た。食堂らしき場所から良い香りがした。なんだかそれが暖かくて、俺はふらりと食堂に入った。 「…おはよう、さん」 「片翼君が居るのです…!!」 そこに居たのは、この城に同居している義父、鳩羽殿。 良い香りの元となる料理を作っていた本人は、鍋を放り出して俺の回りを駆け回る。 「…暫く、世話になるわ…」 「いらっしゃいなのですいらっしゃいなのです、 あっ!パパの御飯食べますかー?」
何故だか頬を桃色に染めた義父は、わたわたと先程放り出した鍋へとUターンして、俺は妙に平和なそれに苦笑して。 「ええよ、自分の飯は自分で食いな。まだ起きたばっかやけ、俺は今は遠慮するわあ」 テーブルの上に置かれた水差しとコップを取り、一先ずは喉の乾きだけ潤す。 「残念ですねえ、…ああでも、夕飯はお父さん腕を振るいますよ、歓迎会を開きませんと」 「…いらん(汗) …暫くの間や、兄様が戻って来たら、帰るんだし…」
そう、帰るんだ。 戦いに行った兄様が帰って来たら。 ふと昨日見送った背中を思い出して、その力強さに恐怖して。 「…なあ親父…」 「…はい?」 独白。 「………いつか俺も、逃げずに何かを守るために立ち向かえるようになれるんかなあ…」 望むだけでは無意味だと知りつつ。 渇望する、何か。
ここはパナルモにあるの大農場である。 そして、そこに住んでいるのは、赤い髪の小さな少年…もといちびっこであった。 ちびっこは、その日も早めに勤務を済ませ、スケッチブックを片手になにやら準備を始めた。 「息子様はマダっすかな?」 ふと思い出したかのように、自室の隣にある息子の部屋をノックした。 息子と言っても、夫の子供であり、実際は義理の息子である。 しかし、ちびっこはこの義息子が大好きだった。年は少し離れているが、二人はとても仲が良かった。 返事のない部屋の前で暫く待っていると、息子が帰ってきた。 「あ、コゼチャ、ただいまー!」
玄関からパタパタと駆けて来るその姿は、夫ともあまり似ずに、綺麗な顔立ちの青年だった。 「あ、息子様ー☆おかえりー!」 「今日は迎賓館行くの?」 「行くっすよー☆ご飯も準備してるから、食べ終わったら行くのっすー☆」 頭ひとつくらい上から声をかけてくる息子に、ばんじゃいの姿で答える母。 「そういえば、明日くらいにはレベル上がりそうだよーv」 単身赴任(?)で夫が居ないため、2人でテーブルを囲む食卓。 「そうなすかー?俺も早くレベルが上がるといいなーwでももう体力いらないー」 「ボクも体力より防御力がほしいなぁ」 一緒に作った料理を食べながら、自分達の成長記録を見比べる。
「…似たもの親子だよねぇ」 「うん、似てるっすよね…」 2人は顔を見合わせて、ぷっと吹き出した。 この間は、迎賓館で顔出しにきた孫を抱きしめるつもりが、タッチをされただけで空振りをした母。 次の瞬間には息子が後で空振りをしていた。 その前は、領主が見せてくれた映像記憶盤のチラシを見て「ろりぷち買いにいかなきゃ!」とお金を握り締め燃える息子の姿が見られた翌日には、「ろりぷち、売ってたら買うっすーv」と悶える母の姿があったとか…。 こんな漫才のような親子だけど、ちびっこはとても幸せだった。 夫が居ない間、ずっと傍に居てくれた大好きな息子のお陰で、寂しさが随分和らいだ。
いつかは、大好きな人と幸せになってもらいたい。 ちびっこの小さな願いだった。 「じゃ、コゼチャ、迎賓館に行こうか」 「うん!」 夜空に星が瞬く頃、仲良く手を繋いで歩く母子の姿があった。 まだ肌寒い風が、ほんの少し温かく感じたちびっこであった。 友情出演(?):息子様(勝手にごめんっす!(汗 そして、文章へぽこ(倒
小鳥啼く、晴れた朝の台所。 傍らから声が聞こえたので、猫の耳の男はふと首を傾がせた。 「……いつか俺も、逃げずに何かを守るために立ち向かえるようになれるんかなあ…」 緋色の髪の息子がそう言うので、目を小さく瞬かせる。それは小さな独白で、何かしら特定のいらえを求めたものではないように、男には思えた。 それで、目の前の鍋に視線を戻す。中では、具沢山の粥が煮えている。 「――さあ、どうでしょうねえ?」 小皿に粥を一口よそい、丹念に冷ましてから差し向けるでもなく一言。 ――ああ、上出来だ。
「片翼君がいつかこうなりたいと思う姿があるのでしたら、頑張って自分でそうなって下さい。お父さんはお手伝い、しませんので」 胡椒はどこにあっただろうか。まだ少し使い慣れないキッチンで、戸棚を一頻り開けて閉めて、3つ目でようやく胡椒の小瓶を見つけて鍋に振るう。 ――私は手伝いませんよ。 上と下の子供にも言うたことだった。 なりたい姿があるならなりなさい。 私は君たちとは違う道の、君たちよりも随分先を歩きながらそれを眺めて、待ちましょう。 その目標は、君たちだけのものですから。 目標が大きければ大きいほど、それは辛い道程でしょうけれど。
「確かに、今の片翼君は子供ですし、ダーク君はとても強いですね。……ですが折角君たちがゴールしたくて走っている長距離走、私が手を引いたり抱き上げたりして手伝ってしまっては、それはただの反則でしょう。」 粥を掛けた竈の火を消しながら視線を巡らせ、振り返って笑う。 「欲しいなら、自分で手に入れなさい」 君一人の力でやり遂げて御覧なさい。 走って疲れて泣いて笑って、手に入れなさい。 それは誰かが君の手に掴ませるものじゃあ、ない。 ですからその手で世界すら、掴んで御覧なさい。 それは私にとってもとてももどかしいことではありますが。
「なりたい姿があるなら、自分でなりなさい。お父さんは手伝いません。ただ」 肉と茸と卵の入った粥を椀に盛り、差し出して、男は言う。 「…とりあえず、あにきのようになりたいなら、まずはちゃんと食べること。悪い夢は、ご覧になると体力を使うものですよ」 ほら、親馬鹿には自信がありますし、 「――僕は、片翼君ならどんなひとにでもなれると、信じておりますからねー?」 何せ君は僕の息子、なのですから。
―執務室にて。 灯りもつけず、煙草をふかす。 吸い込む、一瞬のみ、ぽ、と明るくなる。 ……この地に来て一週間以上が経つ。 いろんな意味で「久々」な感情が心中に去来し、 少し、処理に手間取る。 こういうときは、独りになりたい。
そう。自分はいつも独りで、いろんなことを処理・解決しようとしている。 時には誰かに頼りたいときもあるが、無意識にそれを否定する。 この国で、さまざまな絆を、目にした。 親子であったり、兄弟であったり。 あぁ、いいなぁ。と素直に感じる。それは事実。 「……あー。やめやめ」 煙草の煙と一緒に苦笑を吐き出し。 思考の糸をぷっつりと切って。 「仕事しごと」 すたすたと王城へ向かった。
「…とりあえず、あにきのようになりたいなら、まずはちゃんと食べること。悪い夢は、ご覧になると体力を使うものですよ」 柔らかな日差しと同様に、柔らかな声で。 そういえば親父とマジメな話しなんて、殆どしたことが無いとぼんやり思って。 それはいつだって口をつぐむ自分のせいだと、苦笑して。 だけど台詞の最後にそのぼんやりとした思考すら吹き飛んだ。 「…な…っ!!!」 なんで悪夢を見た事を、とは続かなかった。 ただもう、一瞬の硬直の後に脱力して。 夜中に悲鳴でも上げただろうかと、ここ数日の記憶を探るがよく覚えていない。
ただもう、悪夢は日常茶飯事で、とは言えなかった。親父の微笑みはやはりいつものように暖かかったから。 「――僕は、片翼君ならどんなひとにでもなれると、信じておりますからねー?」 馬鹿だ、と思う。 素性も知れない俺を、迎賓館でただ少し話しただけの俺を、養子にと迎えてくれたこの人を。 親馬鹿、と言うのかもしれないけど。 だけどその馬鹿さ加減がたまらなく好き、で。 だから無言で、湯気の立つ粥の入った器を受け取った。
なりたい自分なんてよく解らない。 ただあの背中に追いつきたいのに。 追いつくまで自分で居られるかも良く解らなくて。 追いかけて良いのかも解らなくて。 諦めたくなんてないのに。 口に含んだ粥はあったかくて。 実は空腹だったらしい腹が何やら満たされて。 「………うまぃ…」 猫舌な癖にとっとと器は空になった。
「ごちそうさま」 言うが早いか立ち上がった。 腹が満たされたら何だか行動力が出て来た気がした。 「あ、お茶は…」 「冷める前に戻る。ちと、せなあかん事があるの忘れてた」 先日調べた図式を思い出す、あれが載っている本は確か荷物に突っ込んだままで。 それならすぐに出て来る筈だった。 「契約をして来る、精霊と……俺かて進歩出来ん訳やない…」 返事を待たずに部屋を出た。 そうして半時も立たずに戻ってきた俺の左手に、見知らぬ刺青が増えていた事は、…まだ、親父しか、知らない。
城門をくぐって、都の中へ。かなり復興が進んでるみたい。 あっちをきょろきょろ、こっちをうろうろ。これからのガッツオのタメにいろんなイベントを立ち上げたり、相談しあってるみたい。 なんだかちょっと懐かしい気がした。 「・・・とりあえずはどこかでごはんたべようかな〜」 ふらふらと匂いに誘われるままあるいていった。
しあわせな季節とはいつだと聞かれたら、俺は冬と答える。 春も夏も秋も冬もただどうでも良かったけれど、そういえば冬に俺は出会った。 たまたま通りかかった迎賓館で。 『片翼殿』 そこから聞こえる筈の無い自分の名に驚いて飛び込んで。 迎えてくれた水色の女と、名前だけ知っていたちいさいの。 そいつらに引っ張り出されたクリスマスパーティーのツリーの下で。 『なあオッサン』 声をかけたのは確か、白い雪の中でまるで血溜まりのような姿に引き込まれて。 苦手だった筈なのにその日交わした杯がまるで暖かくて。
思い出は冬ばかり。 中でも、冬の朝、夜明け前。 まだ暗い中に小雨が降る、そんな光景。 何もかも飲み込んでただひたすらに頑なに。 そんな俺はさぞ話しづらい相手だっただろうに、気付けば何故か名前を呼ばれて。 名を呼ばれる暖かさに気付いたのもそういえばあの頃。 暖かさへの恐怖に震え始めたのもそういえばあの頃。 何もかも後悔はしていない。 そう思える今。 愛しいのは冬。 暖かな雨の降る、代え難い季節。
パナルモにある森の一角、国立森林公園のさらに片隅 夜が明ける頃くらいから、そこには甘い匂いが漂いはじめます そこにあるのは小さな小屋。中には調理場と簡単な休憩所 甘い匂いはその調理場から漂ってくるようです 「…うっし、完成っと♪」 調理場の主の声は意外にも男性でした シェフやらパティシエといったものには確かに男性が多いのでしょうけれど それでもそう思えてしまったのは…彼の見た目が中性的なせいかも知れません 彼の前の調理台には、いくつものケーキ いちご、チョコ、チーズ…どれもおいしそうです
彼はそれを綺麗に切り分けると、休憩所にある透明ケースの中に入れておきました どうやら、森に来た人への振る舞いの品のようです 「そろそろ桜の季節かぁ…なんか花見客用にも用意すっかね」 呟きながらケーキをしまい終えると、彼は再び調理台へ そこにはまだひとつ、ケーキが残っていました 「今日はいちごのケーキ、っと…さて、誰にしよっかな」 くすくすと嬉しそうに微笑みながら、そのケーキをプレゼント用の箱に入れています
「あっちにはこないだ持ってったし、こっちもおととい… 昨日はあの人だし」 どうやら、自分の作ったケーキを誰かに押し付けるのが日課のようです ケーキの箱を前に、しばらく考え込んでいます 「…うし、あいつんとこでも持ってってやるか♪」 本日の犠牲者が決まったみたいです ちょっとした悪戯をして反応を見るのが楽しい子供のような表情で、ケーキの箱を手にとって小屋を出て行きました うららかな春の朝、これが道化の日常
大きな荷物を背負っている青年が、民家の玄関前に突っ立っている。 腕を組み、首を傾げ、何事か考えているようだった。 (・・・・・・思わず、来ちゃったけど) うーん、と唸って、ちらりと視線を下げる。 彼の足には大きなキャンバスが寄り掛かっていた。 長い―――旅からようやく帰ってきて。 その足で真っ直ぐ彼女の家にやって来たのだけれど、あいにく目的の相手は不在だった。 焦りすぎたかな、と反省する。 (昼間だからって、居るとは限らないよな。っていうか、真昼間に家に居ることの方が少ないか・・・) オレってバカ、と小さく呟いて。
扉に手を添える。ひやりとした感触が伝わった。 (・・・早く) 手と同じようにして扉に額をくっつける。やはり少し冷たい。 (早く、会いたいのだけれど―――) 長い長い1年だったと思う。少なくとも、今まで生きてきた23年の中では一番長かった。そう感じた。 旅の間は楽しい仲間に恵まれて、毎日が忙しくて、だから寂しい思いをする暇は無かったけれど。 ・・・けれど、いつも。眠りにつく前には、必ず。
(・・・また後で来よう。一旦家に戻って・・・家主さん達にも挨拶しなくちゃ。) 荷物を背負いなおそうとして、ふと思い立ち、青年は逆に背からばかでかいリュックをおろす。 がさごそと荷物をあさり中から紙とペンを取り出して。そのまま地面に座り込み、紙に何事か書きだした。 作業を終えてしまうと、青年は紙を綺麗に4つ折りにして、家のポストにそっと入れる。 「また、あとで」 呟いて、よいしょという歳不相応な掛け声とともに荷物を背負い、歩き出す。今夜再会できることを祈りながら。 ―――・・・この1年、貴女を想わない日はありませんでした。